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拡大するアメリカ企業のPPA調達。脱炭素は“地産地消”の電力で

消費エネルギーを100%再生可能エネルギーとすることを目指す企業が、世界中で増えてきている。特に米国にはこのような企業が多く、カーボンニュートラルに向けて世界をリードしている。大規模な再エネ電力購入契約を結び、太陽光発電所の新設と脱炭素化への転換を加速させている米国企業の姿とは?

メイン画像:アメリカ、ネバダ州ラスベガス。画像中央にある金色の建物「マンダレイ ベイ」は米カジノ大手 MGMが経営するカジノホテルで、近隣のメガソーラーから直接電力を調達する“地産地消型”PPAを行っている。

米企業の再エネ調達は
2020年に10GWを超えた

持続可能な地球社会へ向けて、脱炭素化に取り組む企業が年々増えている。世界的なイニシアチブである「RE100」に加盟し、企業活動に必要なエネルギーを100%再エネで調達することを目指す企業は、2021年7月現在、世界で300社を超える。米国企業はこのうち30%以上を占め、これらの米国企業は、米国内で再エネに取り組む企業を支援する「再生可能エネルギー購入者連合(Renewable Energy Buyers Alliance:REBA)」にも加盟している。


図)REBAメンバーの米国での再エネ調達発表量が年々拡大している(GW) 出所:REBA

REBAは現在230社を超えるメンバーで構成され、2025年までに60GWの新規再エネを調達することを目標としている。ちなみに、2021年7月に世界での再エネ調達量が累積10GWを超えたと発表したアマゾンはRE100には加盟していないが、REBAのメンバーだ。

REBAよると、2020年にREBAメンバーによって発表された再エネ調達量は、2019年比13%増の10.63GW。REBAの最高経営責任者(CEO)ミランダ・ベランティン氏は、2020年を「企業が後押し(調達)する大規模な再エネの指数関数的成長」と表現した。さらに、2018年からの4年間で、REBAメンバーは累積39GWの再エネ調達を契約済みのため、REBAは2025年までの目標をすでに50%達したことになる。

さらに、2021年1月から3月までを含む第1四半期には、3.2GWを超える調達契約が発表された。テクノロジー別に見てみると、2018年から太陽光発電の調達量が風力を抜き、2020年は総調達発表量のうち72%の7.6GWが太陽光発電となっている。ベランティン氏は、企業の太陽光発電の調達量拡大はこのまま継続する、と予想している。


REBAメンバーの再エネ調達量の比率が近年、風力よりも太陽光発電のほうが増えていることがわかる(グレー色:風力、オレンジ色:太陽光発電) 出所:REBA

太陽光発電のPPA調達で
真の環境負荷軽減へ

一言に再エネ調達と言っても、方法はいくつかあるが、米国のリーディング企業では、再エネ発電事業者と電力購入契約(PPA)を結ぶケースが多くみられる。デベロッパーなど第三者が開発・所有する大規模太陽光発電所から電力を買い取り、データセンターなどの大量な電力需要を賄うのだ。世界で再エネ調達量第1位のアマゾンは、米国内で4.5GWのPPAを展開しており、うち2.2GWは太陽光発電となっている。

現在、米国でPPA用に開発されている太陽光発電所で最大規模のものは、テキサス州の「サムソン・ソーラー・エネルギー・センター」だ。その規模は1.31GWに及び、完成は2023年の予定となっている。この「サムソン」プロジェクトで、最も購入規模が大きい500MW分のPPAを結んだのは、通信大手の「AT&T」だ。同社は、2035年までに自社の事業運営をカーボンニュートラルにする目標を掲げていて、今回のPPAはその目標に大きく貢献するものといえる。

この契約規模は現在、米国で最大規模の太陽光発電取引となっている。AT&Tに次いで、日本の自動車大手ホンダの北米統括本社、マクドナルド、グーグル、そしてホーム・デポも「サムソン」とPPAを結び、電力を購入することが決まった。

米国企業のPPA契約はスケールが大きいが、重要なのはスケールだけではない。PPA拡大の背景には、企業の真の脱炭素への転換が反映されている。例えば、日本では“卒FIT”電力を活用し、自社の「再エネ100%」に充てる企業があるが、既存の再エネ設備から環境価値を買い取ることは、再エネを新しく増やすことにはつながらず、化石燃料を使う火力発電所からの電力需要も減らない。

一方、米国では、華やかなラスベガスのカジノホテルで、企業の事業がある地域に再エネ発電設備をつくり、そこから電力を直接調達する“地産地消型”PPAを行っている(下記コラム参照)。このような取り組みは地域の再エネ規模拡大につながり、環境負荷の低減に大きく貢献するだろう。

“地産地消型”PPAでカジノホテルに電力供給


MGMが運営するカジノ・ホテルに電力を供給する100MWの大規模太陽光発電所。ラスベガスの郊外にある 出所:MGM Resorts International

2021年7月、米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナルが、出力100MWの大規模太陽光発電所からPPAで電力の調達を始めた。これは、ホスピタリティ業界で現在、最大規模の再エネ調達だ。同社は特に電力の“地産地消”にこだわっており、電力供給を受けている配電網と同じ系統に接続している再エネ設備から電力を調達している。この電力は、MGMの「マンダレイベイ」「ルクソール」「ニューヨークニューヨーク」を含む13のカジノホテルに供給されている。

PROFILE

モベヤン・ジュンコ

太陽光発電電池メーカーで7年間産業経験を積んだ後、2006年から太陽光発電調査会社米ソーラーバズでシニアアナリストとして活躍。2013年よりジャーナリストとして、米国の太陽光発電政策や市場トレンドに関する記事を日欧米のメディアに多数執筆。


文:モベヤン・ジュンコ

SOLAR JOURNAL vol.38(2021年夏号)より転載

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