上海モーターショー特別レポート! 突出する中国と迷走する日本!(前編)
2019/06/03
4月16・17の両日開催された上海モーターショー。昨年北京で見られた嵐のようなEV化の波はますます加速しており、もう誰にも止められない。環境経営コンサルタントの村沢義久氏による連載コラム第6回(前編)。
PHVからEVへ
これまで中国のEV化を引っ張ってきた主役はBYD。当初、「F3DM」「e5」「e6」など、車名にアルファベットと数字の組み合わせを使っていたのだが、2012年に生産が開始された「秦」から歴代の王朝名をつけるようになり、その後「唐」「宋」「元」と続いている。いずれも当初はPHVとして発売されたが、昨年来、新エネルギー車法の施行に合わせて、純粋EVバージョンが投入されている。
展示場にBYDチーフデザイナーのWolfgang Egger(ボルフガング・エッガー)氏がいたのでさっそくインタビューしてみた。エッガー氏は「自動車のEV化は加速している」「同じ電動車でもPHVからEVにシフトしている」「BYDは今後も先頭を走り続ける」などとコメントしてくれた。
BYD「宋 MAX EV」
当初はPHVとして発売された
撮影:筆者
「中国のテスラ」か
「アメリカのNIO」か
会場でBYD以上の存在感を見せていたのがNIO(蔚来(ウェイライ))。昨年NY市場に上場を果たしたスター企業だ。従来からの「ES8」に加えて、ひとまわり小さい新型車「ES6」も展示されていた。どちらもSUVタイプだ。
「ES6」は「ES8」より小さいとはいえ「中型SUV」で、航続距離もスタンダード版で410km、プレミア版は実に510kmに達するという優れたクルマだ。 NIOは「中国のテスラ」と呼ばれることがあるが、数年後には立場が逆転し、テスラの方が「アメリカのNIO」と呼ばれるようになるかも知れない。
NIOの新型EV「ES6」
撮影:筆者
今回のショーで目立ったのはバッテリーの大型化だ。2009年に出た三菱「i-MiEV」のバッテリー容量は16kWhしかなかったが、上海ではコンパクトカーでも30kWhを搭載している。NIO「ES6」を含む中型クラスで60~80kWh、大型乗用車では120kWh搭載のものもあった。これで航続距離の方も小型車で300km、中型以上だと400~500kmとなった。
EVへの給電の本命はバッテリー交換方式
バッテリーの大型化で航続距離は伸びたが、それでも、充電時間の長さの問題が残る。その対策として、5~10分で完了という「超急速充電」が導入され始めているが、そうなると、今度はバッテリーへのダメージが大きくなる。
そうした理由から、筆者はEVへの給電の本命は「バッテリー交換方式」と考えている。そこで、今回注目したのがNIOによるバッテリー交換のデモだ。以前、テスラがトライし失敗しているのだが、中国のニュースターであるNIOが新たな挑戦を開始したのだから期待が膨らむ。
デモを見たところ、車を持ち上げ、床下に搭載されたバッテリーをはずして交換する方式で、所要時間は3分強。デモ車は「ES8」だったが、新発売の「ES6」も対象車種になっている。NIOは2020年までに中国主要部に合計1100基の「スワップ・ステーション」を設置する予定と発表している。
バッテリー交換方式の普及は一社では不可能で、各社が足並みをそろえることが必要だ。幸い、NIOだけではなくBAICでも「EV300」を使って交換のデモをやっていた。所要時間はNIOより少し速い。
しかし、まだまだいくつかのハードルが存在する。現時点では各社のEVはバッテリーが取り外せるようになっていないので、これをまず解決しなくてはならない。次に、サイズも電圧もバラバラな点。これでは交換ステーションに何種類ものバッテリーを用意することが必要になってしまう。
解決策としてはバッテリーを乾電池の単1、単2、というように規格化すること。それを、小型車なら1個、中型車は2個、大型車なら3個搭載するという具合だ。
BAICによるバッテリー交換デモ
車は「EV300」
撮影:筆者
プロフィール
環境経営コンサルタント(合同会社 Xパワー代表)
村沢義久
東京大学工学修士。スタンフォード大学MBA。経営コンサルティング会社日本代表、ゴールドマンサックス証券バイスプレジデント(M&A担当)などを歴任の後、2005年から2010年まで東京大学特任教授。2010年から2013年3月まで同大学総長室アドバイザー。2013年4月から2016年3月まで立命館大学大学院客員教授。現在の活動の中心は太陽光発電と電気自動車の推進。Twitterは@murasawa。