地域活性化の絶好のツール、「脱炭素先行地域」選定への道
2023/01/04
11月1日、脱炭素先行地域に新たに20地域が加えられることが発表された。二回目となる今回の選定では、2022年4月26日に発表された第一回の選定と比べ、基準が変更されていると北村氏は言う。今後、各地域の活性化にとって重要な役割を持つ脱炭素先行地域について紐解く。エネルギージャーナリスト・北村和也氏の連載コラム第42回。
脱炭素先行地域
第二回目の選定
脱炭素先行地域をご存じだろうか。とりまとめは環境省であるが、政府の進めるカーボンニュートラルの道筋、「脱炭素ロードマップ」の最大の目玉政策である。
応募主体の自治体は、市町村を挙げて取り組むところもあれば、聞いたことはあるがあまり関心がない、自分たちとは別世界というところも少なくない。意識の差はかなりバラバラである。そんな中、昨年11月1日に第二回目の選定が発表され、新たに20地域が加わった。
今回のコラムでは、これまでの選定結果などを分析しながら、地域活性化のツールとしての脱炭素先行地域を考えてみたい。確かに選定されるのは簡単ではない。しかし、よく知られた再エネ先進地域以外でも十分可能性はある。また、地域を元気にするという観点から見れば、提案に向けた努力は報われると言ってよい。
合計2回の選定結果と
重要な評価委員会の総評
脱炭素先行地域とは何か、簡単に示しておく。基本的な要件は、一定の地域を2030年までに100%電力の脱炭素化するというもので、全国で100を超える地域が選定されることになっている。時間的にいってもまさに先行モデルとなる。選定されると、再エネ交付金が一か所50億円を上限に支援される仕組みである。
一回目の26提案と併せて合計46カ所となった。
(脱炭素先行地域の選定状況(第1回+第2回) 出典:環境省)
エリアで見るとほぼ全国に散らばっている。札幌市、横浜市、名古屋市、川崎市、京都市などの大都市や地方の中核都市が多く含まれる一方、東京都はまだ選出がない。小規模の村や離島の選定もみられる。大都市は、再エネのポテンシャルが低いが、水素を含む都市型の脱炭素モデルの提唱が評価されているようだ。
選定を行う学識経験者中心の評価委員会が毎回「総評」を発表する。わずか数ページのものであるが、提案書を書く上で大変参考になる。一部の選定漏れ自治体は総評をしっかり読み込んでいない可能性がある。
最も重要なのは「実現可能性」である。先行地域は、決して調査や実証ではない。実際に再エネを地域にインストールし、100%電源の再エネ化を実現させなければならない。
第二回の総評の冒頭に、「今回、特に重視して評価した」五つが列挙されている。
1)関係者との合意形成、2)新たな再エネ設備導入の確実性、3)事業性の確保、4)地域経済循環への貢献、5)地域の将来ビジョンで、特に1)から3)までは、実現可能性そのものである。自治体だけでなく提案エリア内の一般家庭を含む民間が脱炭素化に取り組む必要があり、またきちんとペイする再エネ施設を大量に導入しなくては、100%には到達できない。総評は、実現させることが目的だとはっきり示している。
なぜ、先行地域が
地域活性化に結び付くのか
やや異質な評価点は、4)の地域経済循環への貢献であろう。
総評には、「先行地域の取組においては、地元事業者が新たな再エネを導入し、その再エネ電力を域内の需要家に供給することで、再エネの地産地消を実現する」とある。つまり、地元の事業者が施設などを導入し域内の需要家がそれを使う仕組みで地域内の経済が循環するというのである。
これは、政府の脱炭素ロードマップが示す実施体制そのものである。
(脱炭素ロードマップが示す地域の実施体制構築 出典:環境省)
この仕組みは、結果としての経済効果への期待もあるが、実は、事業の実現性と強く関連する。それは、近年、地域に貢献しない再エネ施設に対し地元が拒絶するケースが急増しているからである。四国や東北での風力発電計画の相次ぐ白紙撤回や各地のメガソーラーへの反対運動などは、海外や地域外からの事業者への嫌悪感がベースになっている。もはや自治体や地元業者などの参画がないプロジェクトは成立しなくなってきているのである。
選定のポイントは、
地域エネルギー会社と地方金融機関
この観点から見ると、先行地域に選定された提案にはある共通した特徴がある。
それは、共同提案者である。地域の企業などが自治体に並んで参加している。その中でも、圧倒的なのが自治体新電力を含む地域エネルギー会社である。一回目、二回目合計で、10提案、12社を数える。共同提案ではないが、提案書の中にその協力をうたっているものを含めると27社となる。既存の18社だけでなく、これから設立するものが9社ある。そのうち、1社(秋田県大潟村)は選定後に実際に出来上がった。
もうひとつの有力な参画者は、地方金融機関である。合計6提案で、山陰合同銀行、中国銀行、岩手銀行、滋賀銀行、大和信用金庫、山口銀行となっている。こちらも、表には出ていないが、協力している地銀は少なくない。
地域エネルギー会社と地方金融機関は、ロードマップが求めるように再エネ導入による地域経済循環の主役である。だからこそ、実現性が求められる先行地域の“実質的な要件”になっている。
(5月12日に設立した山陰合同銀行の発電事業子会社『ごうぎんエナジー』のスキーム 出典:山陰合同銀行)
図は、5月に設立された山陰合同銀行の再エネ発電事業会社の事業スキームである。ほぼこの体制で第一回の先行地域に選定されている。自治体(米子市、境港市)や地域新電力(ローカルエナジー)、設置事業者などと協力する仕組みで、地域内経済循環の拡大を目指している。
知っておくべき、
先行地域選定の変更点
実は、二回目の発表を終えて、選定の基準に変化が出てきている。2つの点が見えてきている。
まず、実現性を高めるためにより地域の事業者の参画をさらに強く求めている。また、モデルとしての先行地域のありかたについても言及された。
総評の「今後に期待すること」の最初に「特に、地元の民間企業とは積極的に連携し、事業実施体制に確実に組み込まれるよう、調整を図っていただきたい」とある。さらに、「計画提案書については、民間事業者等が共同提案者に含まれていることを要件とするなど、実現可能性を高めるための措置を検討」ともある。三回目以降は、地域経済循環のカギを握る地域エネルギー会社や地方金融機関などが共同提案しないものは、はじかれる可能性が高い。
また、再エネ交付金の使い方でも、「公共施設への太陽光発電の設置については、PPA 等民間事業者を活用して住宅や民間施設等への事業の横展開が見込まれる導入方式に限定する方向で検討」とわざわざコメントしている。地域の住宅や民間施設への太陽光発電設置も手掛ける事業者、つまりエリア内での連携を求めていると考えられる。
もう一つは、モデルの飽和である。公共施設群のみの脱炭素化は高い評価はされないと書かれた。先行地域はあくまでもモデルなので、例えばこれまで選定されていた大型団地などのモデルは必要なくなるかもしれない。次回以降の提案ではこれらの点をしっかり踏まえる必要がある。
地域のエネルギー関連の事業者などは、それぞれ自治体や地域新電力、地域金融機関などと積極的に連携してもらいたい。そして、脱炭素先行地域を利用しながら、ぜひ自らの事業を拡大させ、地域を元気にする目標に向かって進んでもらいたい。先行地域は地域活性化のツールでもあり、そうでないと地域で再エネは広がらないと、政府自身も考えているのである。
プロフィール
エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。
北村和也
エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ