設置拡大だけではない! ペロブスカイトが拓く可能性|太陽光事業 要注目フィールド①
2026.09.30
変化する政府の方針に呼応するように、太陽光ビジネスにおける企業の投資や事業スタイルにも変化が起こっている。本記事では、特に注目しておきたいキーワードの一つ「ペロブスカイト」とそれを取り巻く現状についてまとめ、その商機について考察する。
1.実証段階から社会実装へ。2つの市場が立ち上がる
2.【政策】量産体制の構築を促し市場形成を加速
3.【企業】フィルム型が切り開く「設置場所を広げる新市場」
4.【企業】タンデム型が生み出すリパワリング市場
5.【展望】既存プレーヤーにもビジネスチャンス
6.インフラ空間への導入検討も進んでいる
実証段階から社会実装へ。2つの市場が立ち上がる
ペロブスカイト太陽電池が、いよいよ実証段階から社会実装へと歩みを進めている。ここ数年、政府の議論は「世界に先駆けて技術開発を進めること」が中心だった。しかし2026年に入ると、その焦点は大きく変わった。現在議論されているのは、量産体制をどう整えるか、初期需要をどう創出するか、そして事業としてどう普及させるかだ。
2026年5月に開催された「第10回 次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会」は、その変化を象徴する会合だった。2024年に策定された「次世代型太陽電池戦略」の進捗確認という位置付けではあるが、議論の中心は技術開発ではなく、市場形成へと明確に移っている。
太陽光発電業界にとって重要なのは、ペロブスカイト太陽電池が「新しい太陽電池」として登場することではない。これまで設置できなかった場所への導入を可能にする新市場と、既存設備の更新需要という2つの市場が同時に立ち上がろうとしている点にある。
【政策】量産体制の構築を促し市場形成を加速
政府は2024年1月、「次世代型太陽電池戦略」を取りまとめ、2040年までに約20GWの導入を目標として掲げた。その狙いは、単に新しい太陽電池を普及させることではない。日本が世界有数のシェアを持つヨウ素資源を活用し、材料から製造、施工、導入までを含めた国内産業を育成することにある。
戦略策定から約1年半が経過した現在、議論は新たな段階へ進んでいる。第10回官民協議会では、量産化へのロードマップや自治体による導入支援、公共施設への導入、設計・施工ガイドラインの整備、さらには業界団体である日本ペロブスカイト太陽電池普及促進協議会(JPSC)の活動状況などが報告された。技術開発だけでなく、「誰が導入し、誰が施工し、どのように市場を広げていくか」という社会実装の議論が中心となっている。
また、環境省も2026年6月、「ペロブスカイト太陽電池の社会実装モデルの創出に向けた導入支援事業」の公募を開始した。補助率は3分の2から4分の3と高く設定され、自治体や民間事業者による先行導入を後押しする。経済産業省が産業育成を担い、環境省が初期需要の創出を担うという役割分担も明確になってきた。
【企業】フィルム型が切り開く「設置場所を広げる新市場」
最も象徴的な動きを見せているのが積水化学工業である。同社は2026年3月、フィルム型ペロブスカイト太陽電池「SOLAFIL」の事業開始を発表。研究開発から事業化へと踏み出したことで、ペロブスカイトは実証技術から商品へと一歩前進した。
軽量で柔軟というフィルム型の特長を生かし、従来の結晶シリコン太陽電池では設置が難しかった場所での利用可能性を高めていく。この動きが示しているのは、ペロブスカイトが結晶シリコンの代替ではなく、太陽光発電市場そのものを広げる技術であるということだ。これまで耐荷重の問題で設置を断念していた工場や倉庫の屋根、曲面構造物、壁面など、新たな設置場所が市場として立ち上がろうとしている。
【企業】タンデム型が生み出すリパワリング市場
カネカは2026年2月、長州産業とともにNEDOグリーンイノベーション基金事業に採択され、タンデム型ペロブスカイト太陽電池の量産技術実証を本格化した。さらに3月には、さいたま市と連携し、公共施設での屋外実証を開始している。製品化目標は2028年度。その先に見据えるのは、薄くて軽いという特性を活かした新市場だけではない。
タンデム型は既存の結晶シリコン太陽電池との親和性が高く、従来同様のモジュールとして利用できる。しかも、発電効率は従来モジュールより圧倒的に高い。この特長は、既設発電所の設備更新、いわゆるリパワリング市場において大きな意味を持つ。
2030年代には、多くの発電所が設備更新の時期を迎える。より高効率なタンデム型へ更新できれば、同じ敷地でも発電量を高めることが可能になる。これまでペロブスカイトは「新しい設置場所」を生み出す技術として注目されてきた。しかし今後は、「既存発電所の価値を高める技術」としても重要性が増していくだろう。
【展望】既存プレーヤーにもビジネスチャンス
ペロブスカイト太陽電池は、既存の太陽光発電市場を置き換える技術ではない。軽量・柔軟という特長を生かし、これまで太陽光発電を提案できなかった場所へ市場を広げる技術であると同時に、高効率なタンデム型によって既設発電所の価値を高める技術でもある。
それは、太陽光発電業界の既存プレーヤーにも新たな事業機会をもたらすことになる。例えばEPC事業者であれば、従来は耐荷重などの理由で提案できなかった案件にも新たな選択肢を提示できるようになる。また、O&M事業者にとっては、設備更新時にタンデム型を活用したリパワリングという新しい提案メニューが加わる。販売会社や商社も、結晶シリコンとペロブスカイトを用途に応じて組み合わせる提案力が競争力になるだろう。
重要なのは、「ペロブスカイト事業」という新しい事業を始めることではない。これまで培ってきた顧客との関係や施工・保守のノウハウを生かしながら、新しい技術を既存の事業へどう取り込むかである。
政府の議論は、すでに技術開発から市場形成へと移った。企業もまた、製品開発から事業化へと舵を切っている。次に問われるのは、太陽光発電事業者がこの変化をどう事業機会へ結び付けるかである。ペロブスカイトが切り開く二つの市場は、太陽光発電産業の次の成長ステージを支える大きな柱となる可能性を秘めている。
インフラ空間への導入検討も進んでいる
道路・鉄道・空港・港湾等のインフラ空間においては、公共性が高い既存の建築物・構造物への設置が中心となり、膨大なポテンシャルが期待される。

出典:次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会
取材・文/廣町公則
アイキャッチ画像:©TonyV3112/Shutterstock.com
SOLAR JOURNAL vol.58(2026年号)より転載
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