アフターFITの世界で輝く「再エネの価値」とは何か?
2019/10/17
FITの次の制度として「FIP」が議論され、具体的な導入案も出てきている。アフターFITの世界はどうなるのだろうか? エネルギージャーナリストの北村和也氏が、再エネ業界の先を読む好評連載コラム第10回。
FIT制度の終了に向けての議論が進んでいる。9月中旬に経産省の有識者の小委員会で示されたFITに代わるシステムがほぼ了承され、制度の枠組みとしての終了は決まったといってよい。そもそも、再エネの電気を固定した値段で高く買い取る制度がFITであり、原発事故の翌年に日本でも導入された。これが10年に達しないうちに一部を残して終息となるが、「早すぎる」「いや十分機能は果たした」と議論は尽きない。
なぜFIT制度が終わるのか
FIT制度とは再エネ発電を増やすことを目指すものであり、いずれ目的が達成されればこの制度は必要なくなる。つまり、終わってなくなることが目標という珍しい法制度である。ところが、現状での再エネ電力の割合は水力を除くと10%を超えた程度で、客観的に見ても十分とは言えない。
ましてやいずれ再エネを主力電源にするというのだから、道半ばどころかいまだ端緒でしかない。再エネが不十分なのは隠しようがないのだ。有識者が話し合っているのはFIT制度を止めるということだけでなく、次の制度をどうするかでもある。
これまでの経緯を見ていると、次のような感情を中心とした議論が背景にあるのではないかと思わせるものがある。現行のFIT制度は太陽光発電ばかりが増えてバランスが悪いし、一部であるが不当に利益を出したり、地域を乱開発したりとけしからんことが多い。また、賦課金が高くなりすぎてこちらも困ったものだ、というのが、FITを止める最も強いモチベーションのようだ。
今回のコラムでは、このあたりのはっきり言って薄い議論には入り込まない。もともとこの制度は大地震の後の対応で慌てて出来上がったものであった。ドイツなどの精緻な数字の組み込みによるEEG(ドイツ版のFIT制度)とは違い、誕生時点から突っ込みどころ満載であった。
再エネの電気を増やすことが目的なのに、いつまでにどのくらいまで増やすかの数的な目標がない。目標の数字が無いのだから、賦課金がどうなるか、どうしたいかの設定もなく、後から「高額すぎる」と言われても首をかしげるばかりである。
そうかといって、私はFIT制度導入が間違っていたという意見には全く与しない。正しかったと確信している。実際に再エネ電源が劇的に増えてきている事実は歴然としているし、もし導入されていなかった時の再エネ後進国日本を想像すると恐ろしいばかりである。制度に問題はあったが、やってよかったのは間違いない。
とにかく、現状では再エネはまだまだ足りないので、FIT制度とは別の仕組みで増やすことが進んでいると理解してもらいたい。重要なのは、それがどんなもので、これまでと何が違ってくるかである。
新しくやって来る制度と
日本の市場の公平性
新しい仕組みは、ドイツでのFIP(フィード・イン・プレミアム)をお手本にしていると思われる。細かい説明は避けるが、これまでのように、野立ての太陽光発電なら1kWh当たり○○円という固定の価格で買い上げられるのではなく、市場での取引を原則とする。
ただし、事前に決められた価格を市場価格(売却価格)が下回った時には差額が補填され、事業の安定性を保つ仕組みだ。事前の価格はドイツなどと同様に入札で決まる方向である。
発電事業者は、新しく作る再エネ施設での電力をいくらで売電するかという入札価格を決めていくことになる。その決め方は、今後の市場の変動(=需要家の動向)を見ながらとなるが、ここに重大な問題がある。
市場価格が恣意的に動かされるなど、市場の公平性や透明性が確立していないと市場価格の信頼性が低くなり、FIPでの売電リスクは当然大きくなる。つまり、FIPには成熟したマーケットが必要なのである。これを日本の市場がクリアしているのだろうか。
日本のマーケットはいまだに大手の旧一般電気事業者などの影響が大きすぎて、とても安定的に機能しているとは言えない。本来であれば発送電の分離がなされた後に電力の小売り自由化をすべきなのに、日本では順番が逆で、分離とFIPの導入がほぼ同時期になる。市場の信頼がないのに、市場価格を基準とする制度を導入するのだ。識者の中には、ここに疑問符を掲げる人も少なくない。
前述したように、今回の改定では賦課金を減らすという目的がかなり前面に押し出ている。FITは導入される発電容量がわかった段階で年間の賦課金の総額がほぼわかるが、FIPは最低価格が保証されるだけなので賦課金の総量は事前に読みにくい。
確かに市場価格が基準価格を上回っていれば賦課金は出ていかないが、市場価格が大きく下がれば想定以上の賦課金が補填される可能性もある。つまり、本当に賦課金が減るかどうかも市場次第となるのだ。