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空洞の第6次エネルギー基本計画案。日本を迷走させるフィルターバブル

第6次エネルギー基本計画の素案では「再生可能エネルギー最優先の原則」と「電力システムの柔軟性」というキーワードが明記された。これらは評価できるが、計画の中身は充実していない――と語るのは環境エネルギー政策研究所 所長の飯田哲也氏。問題点を解説する。

※本記事は、10月半ばに取材を実施したSOLAR JOURNAL vol.39からの転載です。

実はなくとも言葉は残る
再エネ最優先の原則と柔軟性

7月21日に経済産業省が公表した第6次エネルギー基本計画の素案には「再生可能エネルギー最優先の原則」と「電力システムの柔軟性」というキーワードが明記されました。一方で、原発の新増設という文言は書き込まれませんでした。中身は不十分ですが、このキーワードは歴史に残ります。この意味で、前回の基本計画に記載された「再生可能エネルギーの主力電源化」と同じく、これらのキーワードだけは評価できます。

とはいえ、中身が充実していないことには変わりありません。再生可能エネルギーへの世界史的な大転換が起こっていることへの現実認識が不十分であり、太陽光・風力の導入目標が低すぎ、蓄電池は本格導入の気配さえありません。ゲームチェンジャーである電気自動車(EV)や自動運転の記載はほとんどなく、全体としてエネルギー基本計画に値しないレベルです。

第6次エネルギー基本計画素案の電源構成


単位:億kWh 出典:経済産業省「エネルギー基本計画(素案)の概要」より筆者作成

古い“経産省内閣”の再来
見せかけの電力システム改革

10月頭に発足した岸田内閣は第2次安倍政権から続く、古い“経産省内閣”の再来です。現実的な問題として、これまでの容量市場や日本卸電力取引所の市場価格の高騰対策など、見せかけだけで実のない取り組みに留まっています。

特に、日本の容量市場は、石炭火力も参加できる世界で最も高コストなとんでもない代物です。例えば、フランスの容量市場がデマンドレスポンスと蓄電池しか応札できないように設計され、全体のコストを引き下げるように機能しているのとは大違いです。

昨冬の日本卸電力取引所の高騰でも、世界で類を見ない異常な価格が半月も続きました。電力・ガス取引監視等委員会はその役目を果たしておらず、大手電力の市場支配力は強いままです。大手電力による市場価格の操作が疑われる状況で、市場価格に連動して買取価格が決まる新しいFIP制度がうまくいくとは思えません。

世界各国では、米国のバイデン政権が2035年に電力を脱炭素化し、その40%を太陽光で供給する方針を示し、ドイツでも3倍とする目標が提案されています。太陽光を指数関数的にどのように増やすかの議論が活発です。

一方で、日本の太陽光市場は大崩壊の様相を呈し、認定量・導入量は減少の一途をたどっています。これに拍車をかけているのがFIT認定に3割の自家消費を求める「地域活用要件」です。経産省は当初の制度設計が不十分だったために噴出した問題に後追い、泥縄で対処した結果、制度をさらに複雑でわかりにくくしています。

岸田政権では経産省支配の力が強まり、河野太郎前行政改革大臣が進めた再エネ規制改革での指摘が店晒しになり、後退することが確実です。10月末の衆議院議員選挙の結果がどうなるかはわかりませんが、旧態依然とした体制が続くことに強い危機感を覚えます。

2つの厚いフィルターバブル
日本経済を世界から遮断

今回の第6次エネルギー基本計画に象徴されるように、日本は自分たちの見たい情報をだけを見る2つのフィルターバブルに分厚く覆われています。ひとつは電力、もうひとつはEV化に後れを取るトヨタです。世界では、テスラを筆頭にEV化と自動運転技術がガソリン車に急速に取って代わろうとしています。日本は早くこの状況を自覚し、太陽光・風力・蓄電池・EVを中心とする新たな再エネ最優先の社会に大転換を図らなければなりません。

PROFILE

認定NPO法人 環境エネルギー 政策研究所(ISEP)所長

飯田哲也氏

自然エネルギー政策の革新と実践で国際的な第一人者。持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した非営利の環境エネルギー政策研究所所長。
Twitter:@iidatetsunari


取材・文:山下幸恵(office SOTO)

SOLAR JOURNAL vol.39(2021年秋号)より転載

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