公取委が発電・電力小売を調査、容量市場の競争促進を提言
2025/07/22

公正取引委員会は4月25日、発電・電力小売市場における競争環境の実態調査の結果を公表した。容量市場に再エネ発電事業者や蓄電池事業者の参入を認め、事業者間の競争を促すこと、旧一電の内部取引で価格設定を行い、透明性を高めることなどを提言している。
1.2012年にも同様の調査 市場の変化を踏まえて実施
2.競争環境の整備に向け公取委が3つの提言
3.電源などの有する価値の取引における課題
4.発電・小売電気事業者間における相対取引の透明性向上
5.独禁法上問題となる事例には厳正に対処していく
2012年にも同様の調査
市場の変化を踏まえて実施
電源などの価値の市場取引(出典 公正取引委員会)
この調査は2024年3月から10月にかけて、旧一般電気事業者10社と一般送配電事業者9社、新電力・新電力系発電事業者9社を対象に行われた。12年にも同様の調査を実施していたが、当時に比べ、市場を取り巻く状況が大幅に変化したことを踏まえ、今回改めて実態調査を実施した。
21年後半から22年にかけて、LNGなどの燃料価格上昇を背景に、スポット市場価格の高騰や電力需給逼迫が生じた結果、2000年の小売分野の部分自由化後に小売分野に新規参入した事業者の撤退が相次いだ。近年では、地政学リスクに基づくエネルギー安全保障への懸念や国際的なカーボンニュートラルの動きの進展があり、これらに対応するエネルギー構造転換を経済成長につなげるための政策強化も重要な課題となっている。このように、電力市場は、安定供給と効率性あるいは競争促進とのバランスのなかで、国内外さまざまな情勢を受けて市場環境や制度上の課題が大きく変化する市場である。
公取委は、電力自由化の進展とともに独占禁止法の適用範囲が拡大することを踏まえ、経済産業省と連携し、「適正な電力取引についての指針」を策定し、電気事業法および独占禁止法上問題となる行為などを明らかにして違反行為の抑止を図ってきた。
競争環境の整備に向け
公取委が3つの提言
報告書では、(1)電源の非化石化および再エネ電源主力化の要請を受け、安定的な電力供給の維持及び確保が課題である、(2)デジタル社会や脱炭素社会において重要な基盤となる電気について、需要家の多様な選択肢の確保や、効率化による価格低下などの利益の実現のためには、競争環境の整備も引き続き重要であると指摘している。
そのうえで、公取委は「電源などの有する価値の取引における課題」、「発電・小売電気事業者間における相対取引の透明性向上」、「洋上風力発電の公募制度及び資源の供給安定における課題」の3点の提言をしている。
電源などの有する価値の
取引における課題
電源などの有する価値の取引における課題(出典 公正取引委員会)
電源などの有する価値の取引における課題としては、「変動電源である太陽光などの再エネ発電に併設される蓄電池(再エネ併設型蓄電池)についても、将来的に技術的な制約などが解決した場合には、容量市場への参入を認めることにより、再エネ発電・蓄電池事業者の参入および発電事業者間の競争を促すことが競争政策上望ましい」、「仮に現行の最低設備容量の基準が、特定の電源の発電事業への参入阻害として作用していることが認められた場合には、最低設備容量の基準の扱いも含めて見直すことが競争政策上望ましい」、「一般送配電事業者は、実際に申出を受けた場合に、セキュリティ方針や設備仕様・技術面の観点などを考慮の上、可能な限り通信回線の要件などを柔軟に運用することで、需給調整市場への電源の参入を促進し、需給調整市場の競争を促進することが競争政策上望ましい、「アグリゲーターと小売電気事業者の間の円滑な協議の促進等のため、小売電気事業者は、適正価格を設定していることが取引当事者同士で確認できるよう、ネガワット調整金の算定根拠を可能な限り明示することが競争政策上望ましい」と提言している。
なかでも、旧一電内部における環境価値取引の透明化については、「旧一電発電が、非FIT非化石証書の取引について、合理的な理由なく、内部取引を無償とする一方、他の小売電気事業者に対しては有償または不利な取引条件を設定するなどすることで、他の小売電気事業者の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼすことにより、公正な競争秩序に悪影響を与える場合には、独占禁止法上問題となる(差別対価、差別取り扱いなど)」、「非FIT非化石証書を無償で取引していないことなどを明確化するため、旧一電発電は、旧一電の内部取引においても、価格設定を行うことが競争政策上望ましい」と指摘している。
発電・小売電気事業者間における
相対取引の透明性向上
発電・小売電気事業者間における相対取引の透明性向上の提言(出典 公正取引委員会)
発電・小売電気事業者間における相対取引の透明性向上については、「発電事業者が受け取ったまたは支払った費用について、小売電気事業者に卸売価格の反映額を明示することは、相対取引の透明性を向上し、公正な競争環境の確保の観点から望ましい取り組みである、「発電事業者は、その容量確保契約金および発電側課金の小売電気事業者への卸売価格への反映額を明示することが、競争政策上望ましいと提言している。
洋上風力発電の公募制度及び資源の供給安定における課題としては、「多様な事業者の新規参入を促進するため、供給価格点を見直し、事業実現性評価点によっては、ゼロプレミアム水準以外でも落札可能となる環境を整備することは、競争政策上望ましい」と指摘している。
独禁法上問題となる事例には
厳正に対処していく
今後の取り組みについて、公取委は「引き続き、経産省とも連携し電力分野の取引について注視するとともに、本報告書などにおいて示した独占禁止法または競争政策上の考え方の関係事業者などへの普及・啓発に努めることにより、関係省庁や事業者などにおいて、電力市場における事業者間の公正かつ自由な競争の促進につながるような取組が進展することを期待する。加えて、今後、独占禁止法上問題となる具体的な事例に接した場合には厳正に対処していく」とコメントしている。そのうえで、デジタル社会や脱炭素社会において家庭生活や産業活動の重要な基盤となる電気については、需要家にとって、常に多様な選択肢が確保され、自己のニーズに合った形で電力会社や料金メニューを選択できる利益や、効率化による価格低下等が実現する利益を持続的に享受できることが一層重要になることから、これらの利益を実現するためには、競争環境の整備が引き続き重要であるとしている。
DATA
取材・文/石川玲子
9月12日(金)に開催する「第35回PVビジネスセミナー」では、次世代太陽電池の開発研究に取り組む桐蔭横浜大学医用工学部教授の池上和志氏が「ペロブスカイト太陽電池の可能性と課題」をテーマに講演します。
「第7次エネルギー基本計画」では、太陽光発電と蓄電池の導入拡大を進めるなか、供給側の変動に応じて電気需要の最適化を図る必要性が高まっています。今回のセミナーでは、国の政策動向とともに、産業用の自家消費やPPA、系統用蓄電池の最新の動き、国内外で開発された最新テクノロジーなどを紹介します。