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再エネ拡大の新たな原動力 ~脱炭素推進による「企業のブランド戦略」~

嵐のようなエネルギー費高騰が収まり、再エネ拡大への企業などの取り組みが落ち着きを見せてきた。電気代の値上がり対策に汲々(きゅうきゅう)としていた頃と違い、同じ再エネ電力の導入にもしっかりしたコンセプトが加わっている。今回のコラムでは、企業の新しい脱炭素の動向にスポットをあてる。

<目次>
1. 脱炭素の新しい企業動向
2. 増え続ける“脱炭素達成”企業
3. 自治体も取り組む知名度・認知度アップ作戦

 

脱炭素の
新しい企業動向

 新たな取り組みの1つは、電力の質や価値を考える動きで、RE100が強く推す『追加性』を意識すること。そして、企業の主力製品や企業自体の価値を高める『ブランド戦略』との連携である。そういった企業へのビジネスアプローチは、単に電気代が安くなります、では通用しない。

PPAの急増は
追加性と安定性を求める企業心理

企業が脱炭素に取り組むメリット(出典:経済産業省、環境省)

 上の表は、経済産業省と環境省が示す、企業にとっての脱炭素のメリットである。エネルギー費が異常に上昇した局面では、最も上に位置する「エネルギーコストの削減」ばかりが強調された。

 しかし、ここに来て、それ以外の利点に比重が移ってきている。今回取り上げるのは、特に3列目の「知名度や認知度の向上」である。冒頭に示したが、脱炭素に取り組んでいることで企業名やメーカーなら主たる製品のイメージを上げるということになる。もう一つ上げた『追加性』は、新しい再エネ発電所からの電力使用に切り替えることで達成される。これまで料金プランや証書で脱炭素に当てていた企業が、質の良い脱炭素にランクアップする効果がある。

 2030年に企業活動に使用する電力をすべて脱炭素化することを目指す協議体、RE100では、今年の1月から追加性をさらに強く押し出し、例えば建設後15年経過した水力発電などの価値を大きく下げている。一方、PPAには15年ルールは適用されず、企業は長期契約、価格の安定などのメリットに合わせて、追加性でも安心して脱炭素に取り組めることになる。日本でもPPAが拡大する背景のひとつに、こういった脱炭素での差別化が存在する。
 

増え続ける
“脱炭素達成”企業

 前段の話の裏には、より高い脱炭素を求める企業の心理がある。

 知名度や認知度の向上とは、つまり他の企業との差別化を図ることでもある。仮に、ある企業が、すでに小売電気事業者の料金プランや非化石証書などを使って、脱炭素を宣言していても(もちろん、正しい表明である)、いずれ、より評価の高い自前やPPAによる脱炭素を目指すことが重要となるのである。
 例えば、花王や村田製作所などが、料金プランなどで進めていた電力の脱炭素化から、一歩進んでバーチャルPPAを導入した例、また、セイコーエプソンが木質バイオマス発電の自社所有を発表した例などがあり、決して珍しくない。
 
 少し先に行きすぎたが、まずは第一歩の脱炭素達成を果たす企業の例を見てみよう。比較的取り組みが進んでいる電鉄会社がわかりやすい。

2024年1月1日から100%再エネ由来電力で電車を運行(出典:西武鉄道)

 
 直近の例を挙げると、西武鉄道が今年の元日から、全線を100%再生可能エネルギー由来の電力で運行している。上の図のように、太陽光や風力発電所からの電力にトラッキング付きの非化石証書を付けて使用している。

 私鉄では、東急電鉄が2年ほど前に日本で初めて、全路線の100%再エネ電力化を達成した。また、JRでも西日本や東海で新幹線の脱炭素化を進めている。電車は、航空機や自動車に比べて、エコでCO2排出量が少ないことが知られている。しかし、電力を大量に消費していること、消費者に身近で分かりやすいことなどから、取り組まれている。また、どうしても他社の動きは気になるもので、良い意味での競争や相乗効果があるのであろう。

自治体も取り組む
知名度・認知度アップ作戦

 もちろん、電鉄会社に限らない。

 いまや、少なくないお菓子メーカーや食品会社などBtoCの企業が、脱炭素をブランド戦略の一環として利用している。

 中でも、究極のブランド戦略は、アップル社初のカーボンニュートラル製品となったApple Watch Series 9であろう。
 サプライチェーンをたどることから始まって、部品、外装、そして運輸に至るまでほぼ完ぺきな脱炭素を達成した。再エネで足らない分は、“質の高い証書”でカバーしたと宣言している。驚くのは、アップルウォッチの購買者が日々使う電力分も事前に証書で対応している点である。また、再エネ供給が多い時間帯を、時計に加えた「グリッド予報」という機能で、知らせる念の入れようである。

 あまりに凄みのある例はこれくらいにして、民間企業に限らないことを示すため、日本のある自治体を最後に紹介する。

秋田県の「再エネ工業団地計画」(出典:秋田県クリーンエネルギー産業振興課)

 上図は、今年1月末に発表された、秋田県で進められている「再エネ工業団地計画」のマスタープランである。秋田市と能代市にある2つの工業団地に、洋上風力発電などの秋田県産100%の再エネ電源を供給するというプロジェクトである。

 近年、工業団地の第一の売りモノは、税額の減免などから再エネ供給へと移ってきており、秋田県としては、企業誘致の切り札にしたい考えである。特に、海外の企業は、再エネに非常に敏感である。

 再エネ電力の供給開始は2028年頃とやや先なこと、熱などの再エネ化には触れていないことなど、突っ込みどころもあるが、秋田県のブランド価値を高めるのに絶好の取り組みとなる予感がする。

 脱炭素は、差別化の観点からみて、単純な達成からより高みを目指すフェーズに入ってきた。民間や地域がカーボンニュートラルで潤うのであれば、それこそ望むべきWINWINの構図である。そこには、必ず新たなビジネスチャンスがあることも付記しておく。

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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