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静かに進行する、新しい“地域新電力設立ブーム”の堅実な目的

電力市場の乱高下、エネルギー費そのものの高騰に襲われ、厳しい事業環境が続いた地域新電力であったが、ここに来て経営の持ち直しが顕著なうえ、新規の設立が増えている。新しいブームにも見える状況の中、実は、その設立目的はこれまでとは様変わりがみられる。

<目次>
1. 相次ぐ、地方中核都市+脱炭素先行地域の組み合わせの自治体新電力
2. FIT終了を見据えた再エネ利用と地域新電力
3. 地域への経済効果を上げる地元中心の地域新電力

 

相次ぐ、地方中核都市+脱炭素先行地域の
組み合わせの自治体新電力

今回のコラムでは、地域新電力に新たに求められる脱炭素に向けた再エネ拡大と地域の経済循環の確かな担い手としての役割を具体的な事例でまとめてみる。

4月1日、山口市に自治体新電力「山口グリーンエネルギー㈱」が設立された。資本金1,000万円のうち、市が51%、運営のキイ会社となるNTTアノードエナジーが29%を出資するが、残りは、地元の金融機関(山口銀行、萩山口信用金庫)と商工会議所、地元ケーブルテレビと地域主体の構成となっている。
新電力に大きな打撃を与えた2020年の年末からの電力市場高騰後も、実は、自治体などが参加する地域新電力は地道に数を増やしている。

山口グリーンエネルギー㈱を通じた電力の地産地消イメージ 出典:NTTアノードエナジーのプレスリリース

最近の傾向としては、地方の中核都市が自治体新電力を立ち上げるケースが目立つ。例えば、三重県鈴鹿市「鈴鹿グリーンエナジー」(2022年10月)、栃木県宇都宮市「宇都宮ライトパワー」(2021年7月)、また、この夏には群馬県高崎市が「たかさき新電力(仮称)」を設立する予定である。

山口市のケースも含めてこれらの共通点は、いずれの地域新電力も自治体の持つごみ焼却施設による発電を主要な電源として、市などの公共施設をはじめとする地元への電力供給を目指していることである。上図でも強調されている、「電力の地産地消」の実現を目的の柱としている。過去の多くの地域新電力も同様のキャッチフレーズを掲げていたが、ごみ発電のように確固たる電源をベースにしての設立は一部であった。

もう一つの傾向は、脱炭素先行地域との連携である。ご存じのように、先行地域の選定に当たっては再エネの地元利用の機能が必要とされ、そのための地域新電力などの存在が大きな加点材料となっている。前述したNTTアノードエナジーは積極的に先行地域への共同提案者などになり、各地で選定に成功している。同社の8つの選定ケースのうち山口市を含む5カ所(設立予定含む)で自治体新電力が存在している。

また、NTTアノードエナジーに限らず、多くの先行地域でPPA事業など発電施設の拡充にも地域新電力が関与している。つまり、新しい地域新電力は理念としての地産地消だけでなく、ごみ発電の利用やPPAによる太陽光発電の新設など発電側の役割も果たす形態に変化してきていることがわかる。

FIT終了を見据えた
再エネ利用と地域新電力

一方、町などの小規模自治体での設立も進んでいる。岡山県西粟倉村では昨年5月、自治体も出資した自治体新電力「西粟倉百年の森林でんき(百森でんき)」が立ち上がった。西粟倉村も脱炭素先行地域の選定を受けていて、こちらも公共施設や一般家庭への太陽光パネルの設置と既存の小水力発電やバイオマス事業などの調達管理を行って、村の電源100%地産地消を目指している。

もう一つ、特徴的な地域新電力の設立プランをご紹介しよう。北海道の寿都町が、4月初旬に策定した「寿都町CO₂フリーの循環型地域社会づくりに向けたエネルギービジョン」で、自治体新電力の設立方針を発表した。寿都町と言えば、核のゴミの最終処分場の概要調査候補地となっていることで全国的に知られるようになったが、元々風力発電が盛んなことも有名である。

出典:「風の街/寿都町」のWEBサイトトップページ

町のWEBサイトのトップページに、上のような風力発電のイラストが示されているように、再エネ導入にも熱心に取り組んでいる町である。実際に全国で初めて町営の風力発電所を導入していて、現在11基が稼働している。FIT制度で売電されているが、高い買取り期間が順次終了を迎える。具体的には、2024年に3基、2027年に5基、2032年に2基が売電期間を終えるため、その後は電気を町内で地産地消することを、ビジョンで示している。つまり、地域内に風力発電の電力供給を行い、その経済効果を余さず地域にもたらすためには、地域新電力が必要であるとの結論が導かれたのである。

地域への経済効果を上げる
地元中心の地域新電力

比較的早く始まった地方の風力発電は、2020年代の後半あたりからFIT売電の期間を終えるケースが増えてくる。実際に筆者が関与している、ある地域の風力発電施設でも同様のことが起きようとしている。そこは自治体所有の施設ではなく、事業者はリパワーリング(新しい機種に建て替えること)を検討している。しかし、設置当時とは違い、今は再エネ施設の新設や存続には地元との連携や協力関係が欠かせないという環境の変化があり、現在FIT切れ後の電力の地域供給の話が起きている。

これまで、多くのFIT電源はほぼすべてが地域外へと流れ出していて、地域にメリットがほとんどなかった。ところが、FIT期間終了をきっかけとして新しい地産地消の可能性が見えてきたのである。そのツールとして地域新電力の役目に注目が集まりつつあるといってもよいであろう。
 例示したように、必ずしも自治体所有の発電施設である必要はなく、今後は風力発電に加えて大量の太陽光発電も同様なスキームの中に入ってくる。ただし重要なのは、電力を地産地消する地域新電力の中身である。

様々なパターンがあるのだが、垣間見えるのは地域外の事業会社などへ新電力の運営を丸投げしたり、場合によっては資本全体を依存したりすることさえある。地域のステークホルダーは自治体に限定されない。地域の金融機関やケーブルテレビなどのメディアや商工会議所、さらに需要家としての地元企業も立派な関係者であり、出資者の対象となる。地域脱炭素を地域の力を結集して進めるチャンスが生まれてきている。地域の経済循環も見据えて、FIT切れなどの機会を逃すことなく活用してもらいたい。

プロフィール

エネルギージャーナリスト
日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表
埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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