需給調整市場の上限価格を引き下げ 懸念される再エネ拡大目標への影響
2026.08.26
経済産業省は7月14日、需給調整市場の一次・二次①・複合商品の上限価格(単位:円/ΔkW・30分)を15円から10円へ引き下げることとし、9月1日実需給分から適用することを明らかにした。引き下げの背景と今後の影響を解説する。
ほぼ全ての応札電源が
上限価格で契約されてきた
これまでは公募する電力に対して応札が少なく、ほぼ全ての応札電源が上限価格で契約されてきた。そのため、蓄電所などは「3年で元が取れる」と言われるほど収益性が高くなり、接続許可を得た蓄電所案件が高額で転売されることも多くなった。
競争原理がうまく働かないため調整用電力の調達コストは高止まりし、電力料金の引き下げを阻害する可能性もある。上限価格引き下げはこうした状況の改善を図ったものだ。だがその一方、再エネの大量導入には蓄電池のような柔軟な調整機能が不可欠であり、上限価格引き下げがその設備形成に悪い影響を与える可能性も指摘されている。
上限価格を段階的引き下げも
7.21円まで低下の可能性


応札価格の分布(出典 経済産業省)
経産省は今年3月、前日取引を開始した。これにより事業者はJEPX(日本卸電力取引所)のスポット市場の約定結果を確認してから、需給調整市場への応札判断が可能となった。た同時に上限価格を従来の19円から15円に引き下げた。これによって競争状況が改善されればこれ以上の引き下げを行わないとしていた。ところが、その後応札量は増加したものの、相変わらず上限価格水準での落札が続いていることから、9月にさらなる引き下げを行うこととしたものだ。これによって競争環境が生まれなければ、さらに7.21円程度まで段階的に引き下げるとしている。
現状では上記の通り、応札量が未達の状況が続き、達コストは高止まりの状況にある。また、今年3月に15円に引き下げたのちも応札量が増加していることから、引き下げの悪影響はいまのところ見られていない。ただ、15円に引き下げ後の今年3~7月は1年の中では比較的電力需要が少ない期間(端境期)であった。今後、高需要期に向けて、端境期に作業や点検などを行っていた電源が稼働し、供給力として活用可能な電源が増加する。しかし事業者側は高需要期での応札量増減や応札価格水準を予測することは困難であり、状況によっては応札量の増加・減少のいずれも想定されるとしている。
応札価格が高くなる要因としては、蓄電池の場合は固定費が占める割合が高く、償却期間を6年程度の短期間に設定している案件では当該年度の減価償却費が大きくなるためとしている。また火力の場合は「限界費用の上昇により、追加起動した場合の応札価格が上限価格を超えるため、経済的な観点から応札できない場合もあった」という。電源コストが高く応札できないことで、未達が繰り返され、価格が高止まりするという形になっている。
蓄電所投資が減退の可能性も
特に洋上風力で影響大きい

一定期間の状況を見極めたうえで次の判断を行うべき
固定費や追加起動費用により、上限価格内での応札が難しいとなると、引き下げに伴って応札量は不足する可能性がある。特に蓄電池ではJC-SATR認証を受けていることが補助金の対象要件となったこともあり、海外製の低コスト蓄電池を導入しにくくなっている。このため蓄電池の資本コストは今後上昇することが予測されており、上限価格引き下げとともに事業採算性が低下、新規投資案件では採算悪化し需給調整市場への参入意欲低下につながりかねない。現状では多くの蓄電所案件が動いているため、大きな影響がすぐに出るとは考えにくいが、中長期的に見れば蓄電所投資を冷やすだけに終わるかも知れない。その結果、電力システム全体で調整力不足に陥る懸念もある。
これは政府の再エネ最大活用方針とも矛盾してしまう。エネを拡大するには、変動抑制が必要不可欠であり、その最大の方策は送電網の広域化だ。しかし、日本の送電網は細かく分断され、東西で周波数が異なるため、広域化が進展していない。蓄電池はその穴を埋める形となっており、投資が減退すると再エネ拡大路線の障壁となる。[特に洋上風力については発電量が大きく、発電所が需要地と離れていること、風況で出力が大きく変動することなどから、蓄電所投資が減少すると大きな影響を受ける可能性がある。
逆に、調整力の調達コストが低減され、なおかつ十分な調整力を確保できるのであれば、再エネ全体のシステムコストが低減されることで、むしろ導入拡大につながる可能性もある。9月以降の約定の状況次第では、需給調整市場の正常化も期待できる。ただそのためには早急な結論を出すのではなく、1年程度の一定期間の状況を見極めたうえで次の判断を行うことが望ましいと筆者は考えている。
取材・文/宗 敦司
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