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欧州エネルギー危機の解決策は、やはり「再エネ拡大」

エネルギーの多くをロシアの化石燃料に頼っていたヨーロッパは今、深刻なエネルギー問題に立ち会っている。このヨーロッパのエネルギー危機は複数の要因が絡み合って複雑化しており、解決にはかなりの努力を要するだろう。欧州は、この難関をどうやって乗り切ろうとしているのか、実態と対応策をまとめる。

欧州を襲う
エネルギー危機

 ヨーロッパのエネルギー費高騰が止まらない。

 一時期、来年にはイギリスやドイツでは一般家庭の光熱費が日本円で年間100万円を超えると言われるなど、国民の生活に多大な影響を及ぼしている。電気代は2倍に、ガス代はさらにそれを上回る。欧州委員会は、9月に入り緊急対策案を打ち出しているが、電力取引を制限する内容が含まれ反発の声も起きている。

 日本に伝わってくる対策は、わかりやすい原発の利用拡大が目に付くが、事はそれほど単純ではない。逆に、原発の不具合が高値の要因になっているなど、課題は複雑化し、解決策は混迷している。

 エネルギーの契約切り替えは定期的にやってくるため、企業は更なる大幅な値上げを迫られている。「もう払えない」と悲鳴を上げる家計と併せて、欧州はエネルギー危機の真っただ中にある。

 欧州は、この難関をどうやって乗り切ろうとしているのか、実態と対応策をまとめる。

ベースはロシアのウクライナ侵略、
水力と原発の発電不振が追い打ち

 ロシアの化石燃料に頼るヨーロッパのエネルギー構造の柱は、ウクライナ侵略をきっかけに簡単に瓦解してしまった。特に天然ガスは全体の4割をロシアに依存していたため、ロシア制裁の輸入禁止措置はとても現実的には見えなかった。それでも、天然ガスの需要15%削減や輸入先の変更などの努力は一定の効果を上げ、9月時点で欧州全体としてロシア産を数パーセントまで減らした。昨年55%をロシアから入れていたドイツでさえ、一桁の依存率まで落としている。 

 その裏では、天然ガスの取り合いによる高額契約や他の化石燃料などへの代替が発生している。企業が使うエネルギー費が数倍になった例も珍しくない。

 2021年の後半から続く高値は、当初、新型コロナからの経済復帰や脱炭素の急速な進行によるエネルギー源バランスの崩れなどが原因であった。そこにウクライナショックが強烈な打撃として加わる。ところが、2022年の電力価格上昇は、別の2つの要因がこれに追い打ちをかけたことが分かった。

 ベルギーのシンクタンク、Emberのまとめによると、今年の欧州27か国の発電量は、ある2つの電源で2021年に比べて大きく落ち込んでいる。水力発電と原子力発電である。それぞれ62TWhと70TWhのマイナスで発電量全体の10%弱に及ぶ。
これをカバーしたのが、再エネ(太陽光と風力発電)と化石燃料(石炭と天然ガス)であった。限界費用の安い水力と原発が大幅に減った穴埋めは、天候が良く増えた再エネだけでは足らず、ロシアがらみで暴騰する天然ガスや石炭発電に頼らざるを得なくなった。これが価格を大きく押し上げ、電力の卸売市場で、一時、スポット価格が例年の10倍をはるかに超える値まで付けることとなった。

気候変動が発電に影響、
原発の信頼も揺れる

 水力発電の不振は、この春から夏にかけて欧州を襲った熱波による水不足が原因である。欧州の水力発電の宝庫、ノルウェーだけでなく、各国の水力発電が発電量を下げた。温暖化が、ついに再エネの発電量に影響するまで進んだのである。水量の低下はライン川などの船による運輸を脅かし、火力発電の石炭燃料が運べない事態も招いた。
 
 実は、深刻なのは原子力発電である。 
 特に、フランスの原発は、56基中、半分以下しか動いていない。下のグラフのうち、最もはっきりした実線が今年の発電量である。年初から昨年と一昨年を下回っているのがわかる。

(フランスの原発による発電量2020,21,22 出典:IWR、ENTSO-E)

 フランスは、欧州一の原発大国で、長い間、電力の輸出国でもある。今年は、原発の不振で、一転して電力輸入国に転じている。周辺国のすべてから輸入し、市場の価格を押し上げる大きな要因となっている。
 原発不振の最大の原因は、原発の配管の腐食などとされている。新型コロナの蔓延時にメンテナンスができていなかったとも言われている。
 
 欧州では、今回のエネルギー危機の緊急対応として、原発の稼働延長などの声が聞かれる。この年末までの脱原発を着々と進めてきたドイツでさえ、残り3基について、来年4月までの運転延長が決まった。

 そもそもフランスの不具合は運転延長による機材の疲労が原因という見方があり、例えば、イギリスは現存する13基中12基を2028年までに粛々と閉鎖する。新設計画は発表されているが、安全管理を含めたコスト高の問題が大きい。また、原発は運転までにかかる時間が10年単位と非常に長いことも課題である。

 いずれにせよ、欧州が全体として、原発に脱炭素の行く末も含めた長期の信頼を託すのではなく、目の前のエネルギー危機を回避するためのツールの一つというのが、冷静な見方であろう。

欧州の緊急対策と
長期の方向性

 
 欧州委員会の示す高騰対策案は、かなりドラスティックなものである。確かに、ピーク時の5%ダウンを含む10%の電力需要カットは、常識的な需要抑制である。しかし、再エネや原発電源の市場取引での上限設定やエネルギー企業の超過利益の拠出は、実現すれば自由市場に手を突っ込むことになる。すでに、企業や再エネ発電事業の立場からの反対意見が出ている。
 
 これらの短期的な“手当て”とは別に、各国で広い合意が取れている対策は、再エネの拡大に更なる拍車をかけることである。

 中でも太陽光発電に対する期待は大きく、すでに多くの国で設備が急増している。その成果がこの夏に表れた。

 次図は、EU27か国の太陽光発電の発電量を年ごとの曲線で示している。最も上にある濃いオレンジ色の線が、今年の実績であり、2021年(薄いオレンジ))や過去の数値(薄いグレー)を大きく上回っているのがわかる。天候の影響もあるが、新設が着実に増えた結果である。

(欧州27ヵ国の太陽光発電の実績 出典:Ember)

 グレーの網掛けの期間(5月から8月まで)を夏として、今年の夏の太陽光発電の数値は昨年を28%も上回っている。また、これは、EU各国の発電量の12%に達している。

 もともと、欧州では風力発電が引っ張る形で再エネを増やしてきた。もちろん、洋上風力にも力を入れ、さらに拡大させようとしているが、このところ、太陽光発電への投資が急増している。特に、オランダや南欧のスペイン、ギリシャなどが積極的である。

 EUとしても、毎年の導入量を現在の2倍に増やす目標を立てていて、2030年には太陽光発電の新規導入を100GW近くまで持っていこうとしている。

 現在のエネルギー危機の中でも、ドイツなどでは日時によってはスポット価格が、1kWh当たり数ユーロセント(10円以下)をつけることは珍しくない。限界費用ゼロのVRE(太陽光、風力発電)は電力価格を下げる役割を果たしている。高騰危機からの脱出を含め、脱炭素の達成の王道が、再エネのさらなる拡大であることは、何一つ揺らいでいない。

 

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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