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欧州エネルギー高騰は一段落か?! ~どうなる日本への影響と対策~

ヨーロッパのエネルギー費高騰がやや落ち着いてきた。最大の課題だった、天然ガスの貯蔵率がほぼフルになって、価格も現状では大きく下がっている。また、ロシア産の天然ガスからの脱却は電力にも影響し、大きな値上がりやドイツの脱原発の先延ばしまで呼んだ。今回は、ロシアのウクライナ侵略で大きく揺れ動いた2022年の欧州エネルギーの現状を簡単にまとめるともに、日本への影響を考えてみたい。

落ち着きが見えてきた
欧州のエネルギー費だが…

ヨーロッパを襲ったインフレの主因は、ロシアであった。次のグラフのように、農産物なども10%強の値上がりだが、エネルギー費の40%越えはまさに暴風雨級である。これは、ロシア産天然ガスなどに依存していた欧州の“油断”の露呈ともいえる。

(欧州のインフレ率、2022年9月 出典;Ember)

一方で、欧州はほぼ結束して化石燃料の脱ロシア依存に注力し、成果も出した。天然ガスの貯蔵率がこの冬の需要期を前に全体で9割を突破、ドイツでは、10月25日時点で97.5%に達した。この冬に必要な量が確保できたことから市場は大きく反落した。例えば、次のグラフのドイツの一般需要家の新規契約時の価格は、およそ22ユーロセントまで下がった。これは、この夏の最高値の半分程度である。また、欧州での指標のオランダTTFも大きく落ち、マイナス価格を付けた時間まででている。

(ドイツ、年間2万kWh使用の場合の新規契約価格の推移 出典:Die ZEIT ONLINE)

残る根本的な不安材料、
LNGの取り合いも続く

もちろん、これで安心というにはほど遠い。これまでヨーロッパへの天然ガスのメインルートだったロシアからドイツへのノルドストリームは、完全に途絶えたままである。今年の冬は在庫でカバーできても、補充されなければその次の冬が本当に厳しくなる。LNGへの転換は確かに進んでいて、基地が無かったドイツでも来年の半ばには稼働できる可能性がある。しかし、肝心なのはLNGの買い付け先の確保である。今年は中国の経済が緩く何とかなったが、景気回復すればこれまでの需要家と併せてバッティングすることになる。

(欧州の天然ガス輸入先の転換と「RePowerEU」の目標 出典:Ember)

上の右図の「RePowerEU」が、欧州による天然ガスの脱ロシア依存の2030年時点の目標である。左図は2021年の天然ガスの輸入先データで、上側の黄土色の部分がロシア、下の青色がロシア以外である。これを2030年には需要自体をロシア以外の輸入量まで減らそうとしている。2030年までの間は、カタールやアメリカからのLNGの追加分などを中心につないでいくスキームなのがわかる。しかし、これも相手があり、価格も含めてすんなり進むかどうかははっきりしない。欧米などの専門家の見立てでは、この冬は乗り切っても次の冬には在庫切れも含めた不安が残る。

また、2020年代の半ばまではエネルギー動向は不安定でLNGの争奪戦が世界で続く可能性があるという。特に、電源を主として天然ガスに頼り、激しい円安に直面する日本にとって厳しい状況が残る。

この夏の欧州の救い主は
太陽光発電ブーム

前回のコラムでも示したが、この夏の欧州が、フランスの原発不具合と水不足による水力発電不振による電力不足を何とか乗り越えられたのは、再エネの伸び、特に太陽光発電の増加のおかげが大きい。

(EUの太陽光パネルの中国からの輸入量 出典:POLITICO、BNEF 単位:ドル)

上図のようにEUの中国からの太陽光パネル輸入は、2月末のロシアのウクライナ侵略以降(グラフ内の赤色部分)、大きく増加した。実際に電気代の急騰に対応するため建物の屋根上などに自家消費用として設置するケースも激増している。この結果、日本向けなどの資材不足の声も聞かれるほどである。ドイツでは、昨年の設置実績をすでに上回り、2022年の目標である7GWに向かって順調に導入が進んでいる。EUは全体として、VRE(太陽光発電、風力発電)の導入をさらに加速させ、脱ロシア依存と脱炭素を同時に実現させる道を邁進(まいしん)しているのである。世界的に見ても、太陽光発電への期待は大きい。今年末には積算で1TWを確実に突破し、2020年代の後半には3TWを伺う勢いである。
 

(世界の太陽光発電の導入予測 出典:Solar Power Europe 2022)

日本への影響と緊急対策、
本当に必要なのは何か

 
欧州の天然ガスを中心としたエネルギーの不安定さは、少なくとも2,3年は継続するとみるのが妥当であろう。つまり、LNG獲得の争いは続き、日本の電気代などのエネルギー費にネガティブな影響を及ぼすことになる。
 
ここで、欧州の高騰対応に目を向けたい。短期的には、節約、補助で、そして、全体の基本に再エネ拡大がある。特に、天然ガスをなるべく使わないという「節ガス」はかなり徹底され、効果も生んでいる。下のグラフは、ドイツの家庭の昨年比のガス使用の削減率である。暖房シーズンとして9月からの統計であるが、昨年比マイナス20%から30%越えの週もある。今年は、かなり気温が高いためその影響もあるが、実際に節ガスの効果も高い。

(ドイツの家庭の節ガス 前年比 出典:Die ZEIT ONLINE)

また、欧州委員会が10月に決めた、高騰対策の第一番目は、節電であった。ピーク時の5%カットと来年3月末までの全体量の10%削減が目標とされている。需要家への補助については総合対策に含まれ、ドイツなどで20兆円を超えるようなかなりの枠を取っている。一方で、財源も同時に追求しているところが特徴である。天然ガスなど化石燃料関連の企業やメリットオーダーの結果として電力卸売市場で過剰利益を得ているとされる発電事業者からの徴収でまかなう方針も打ち出している。

振り返って日本の場合はどうか。3兆円に近づくガソリン補助に加えて、すでに一か月2000円程度の電気代やガス代支援がほぼ決まっている。ただし、財源は税金で長期の継続には無理がある。低所得者を中心とした、本当に困った人たちへの支援に限定すべきである。また、節電ポイントの制度も始まる。しかし、何もしなくてもお金がもらえるなどバラマキ感が強い。夏に続いて、この冬も節電要請を行うようだが、日本人にはこの要請レベルでも十分効くように思われる。夏よりもさらに強い文言やはっきりした理由を掲げて良いのではないだろうか。停電の危機もあるが、脱炭素が進まず温暖化による災害危機を訴えることは、国や世界の目的にも合致する。

目の前で展開するリスクは、一過性のものではない。対応には身を削る覚悟も必要である。限られた財源を、今まで通りに気楽にエネルギーを使い続ける分に使うのか、迫る気
候変動防止のため再エネ拡大などに振り向けるのか、迷っている時間はもうない。

 

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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