政策・制度

動き出した国の蓄電池産業戦略 官民一体で生産基盤を強化

かつてリチウムイオン電池を世に送り出した日本。海外メーカーにシェアを奪われるなか、2022年8月に策定した「国の蓄電池産業戦略」が本格的に動き出した。日本の電池産業は再び世界をリードすることができるのか。

リチウムイオン電池の
部素材メーカーが積極投資

リチウムイオン電池用セパレータ(出典 旭化成)

リチウムイオン電池用セパレータ(出典 旭化成)

「リチウムイオン電池用セパレータの塗工能力を大幅に増強します」
大手総合化学メーカーの旭化成は昨年10月、リチウムイオン電池向けセパレータ(絶縁材)の塗工能力を2.4倍に増やすと発表した。旭化成は、リチウムイオン電池を開発してノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏の出身企業。世界の国々で蓄電池の主流となっているリチウムイオン電池のいわば“生みの親”である。

かつて旭化成は、リチウムイオン電池の主要材料であるセパレータの出荷量で世界一を誇っていたが、2018年に中国企業に追い越された。今回の設備投資は、電気自動車(EV)など車載用途を中心に成長が見込まれる、湿式型セパレータの旺盛な需要に対応する。膜を生産後、表面にセラミックなどを塗る工程の能力を年約5億㎡から約12億㎡に高める。
旭化成は、約400億円を投じて日米韓の3工場に塗工設備を置き、2026年4〜9月期に順次稼働する。EV換算で約170万台に相当する供給能力を有することになる。今回の設備投資を通じて北米や日本、韓国などの市場で、より高機能な車載向け湿式セパレータを供給できる体制を整える。
フッ化ビリニデン樹脂(出典 クレハ)

フッ化ビリニデン樹脂(出典 クレハ)

化学メーカーのクレハは、福島県いわき市にあるいわき事業所のフッ化ビリニデン樹脂(PVDF)の生産能力の増強を図る。PVDF はリチウムイオン電池のバインダーとして使用される。現在、日本と中国で計11,000トン/年ある生産能力を引き上げ、2026年中に計20,000トン/年の生産能力とする。さらに、2030年の日本国内における蓄電池生産目標に見合った生産・供給能力を目指す。クレハでは、「最新の製造技術を導入することにより生産に係る廃棄物発生量の削減及びCO2発生の削減につなげ、環境負荷低減を盛り込みます。電池メーカーの要望に沿ったグレード開発を含む研究開発を強化していくことで、蓄電池の高機能化に寄与したいと考えています。また、国内電池メーカーのみならず海外電池メーカーへの販売も同様に強化し、日本の電池関連ビジネス(部素材)の強化にもつなげていきます」としている。

リチウムイオン電池の
製造能力を7倍に

蓄電池・材料の国内製造基盤の将来見通し。(出典 経済産業省)

蓄電池・材料の国内製造基盤の将来見通し。(出典 経済産業省)

国内企業の投資意欲を高めるきっかけとなったのが、2022年8月に策定された「国の蓄電池産業戦略」。官民を挙げたリチウムイオン電池の国内製造基盤の確立により日本企業の国際競争力を強化し、2030年頃の全固体電池の本格実用化やハロゲン化合物などの新しい電池分野で技術的優位性の確保を目指す。

今回の蓄電池産業戦略では、日本のリチウムイオン電池の製造能力を2030年までに国内で150GWhに向上させる。2022年8月現在の国内での製造能力は約22GWhとなっている。開発や製造に関連する人材を2030年までに3万人確保する。人材育成のため、蓄電池産業が集積する関西で、産学官による「関西蓄電池人材育成等コンソーシアム」を設立する。

かつて日系企業は蓄電池の世界市場で高いシェアを占めていたが、近年は中国と韓国メーカーが海外市場を積極的に開拓している。2015年に51.7%でトップだった日本の車載用リチウムイオン電池の世界シェアは、中国や韓国に抜かれ、2020年には21.1%となっている。定置用リチウムイオン電池の世界シェアは2016年の27.4%から2020年は5.4%まで低下している。

これまでの政策を転換
リチウムイオン電池を重点支援

国の蓄電池産業戦略では、全固体電池などの技術開発に集中投資していた、これまでの政策を改め、足元の需要増が見込まれるリチウムイオン電池への投資を支援する内容を盛り込んだ。電池産業への投資を促すため、政府は2022年度補正予算で「蓄電池のサプライチェーン強靱化支援事業」として3316億円を確保した。昨年12月に可決成立した2023年度補正予算では、2658億円を計上している。

2022年度補正予算で
15件を採択

2022年度補正予算 第1回目の認定(出典 経済産業省)

2022年度補正予算では、蓄電池3件、蓄電池部素材12件の設備投資・技術開発の計画を認定した。このうち、昨年4月に第1回目の認定として、蓄電池2件、蓄電池部素材6件の設備投資・技術開発の計画を認定している。

2022年度補正予算 第2回目の認定(出典 経済産業省)

昨年6月には第2回目の認定として、蓄電池1件、蓄電池部素材6件の設備投資・技術開発の計画を認定した。設備投資は事業総額の3分の1、技術開発は2分の1を上限として補助する。

官民が議論を重ねて基盤強化に取り組み始めた日本の電池産業。2022年度補正予算をうけて、蓄電池・材料の国内製造基盤は約80GWhまで拡大する見通し。いまのペースで投資が進めば、2030年の150GWhの能力目標を前倒しで達成することを期待する声もある。

コバルト不使用の
リチウムイオン電池を開発

試作したリチウムイオン電池(出典 東芝)

試作したリチウムイオン電池(出典 東芝)

リチウムイオン電池は、さまざまな希少金属を必要とする。なかでも、重要な素材がコバルト。リチウムイオン電池の正極材に不可欠で、希少性が高く日本は国内消費量のほぼ全てを輸入に頼っている。東芝は昨年11月、コバルト不使用の5V級高電位正極材料を用いて、新しいリチウムイオン二次電池を開発したと発表した。希少金属の利用を抑えると正極の表面にガスが発生していたが、電極の構成部材を改良したことでガス発生を抑制する。

これについて東芝は、「特定国への偏在等の課題があるコバルトを用いない電池を開発することで、サプライチェーン上のリスクを抑え、国内における安定的な調達と資源保全を両立することを推進していきます。また、今回のLNMO正極のガス抑制技術を更に進化させ、技術的優位性を維持することで国産リチウムイオン電池の競争力強化に役立てます」としている。
開発技術の模式図(出典 東芝)

開発技術の模式図(出典 東芝)

同社はリチウムイオン二次電池の試作品で、3V以上の出力電圧と、5分間で80%充電できる急速充電性能、60℃の高温下での優れた寿命特性を実証したとしている。小型で高電圧が必要な産業用途から、将来的に電気自動車などの大型用途に至るまで、幅広いアプリケーションへの適用が期待される。東芝は2028年の実用化と電池の大型化を目指して研究開発を進める。

東芝は、「今後、さまざまな用途への展開を考慮し、セルの大型化・製造技術開発などに取り組んでいきます。具体的には、セルの大型化を目指すにあたり、電池内部における電気化学反応の均一性や、製造プロセスにおけるロバスト性などが課題になると考えられ、製品化に向けた課題抽出と解決に取り組みます」としている。日本の大手メーカーが総力を挙げて、リチウムイオン電池のシェア奪回に取り組み始めた。

3月13日(水)の再エネビジネス塾では、office SOTO代表で省エネ・脱炭素エキスパートの山下 幸恵 氏が「PPAと蓄電池ビジネス 新規参入の基礎知識」 というテーマで講演する。

再エネビジネス塾

FITからFIPへの移行やCO2削減対策の加速、電気代の高騰、大規模災害による停電の多発をうけて、PPAと蓄電池を組み合わせたビジネスが全国各地で拡大しています。この機会に、PPAと蓄電池の基礎知識を学んでみませんか?Zoomを活用したクローズドなオンライン勉強会なので、じっくり学ぶことができます。

DATA

国の蓄電池産業戦略(2022年8月策定)


取材・文/高橋健一

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