脱炭素

不完全な電力市場が価格高騰の元凶。道理にかなった細事こそ展望を開く

ロシアによるウクライナ侵攻により、石油やガスの価格が高騰している。それにより電力価格も高騰しているが、そもそも根本的な原因があると、環境エネルギー政策研究所 所長の飯田哲也氏は語る。

それでも加速を続ける再エネ
エネルギーの自立化にも寄与

2月から続くロシアによるウクライナ侵攻の影響によって、石油やガスの価格がさらに高騰しています。欧州委員会もこの対応に苦慮していますが、再生可能エネルギーへの転換スピードを緩める考えはありません。ドイツは、すべての電力を再生可能エネルギー100%とする目標を2040年から2035年に前倒ししました。リントナー財務大臣の「自然エネルギーは『自由へのエネルギー』だ」という発言が象徴するように、再生可能エネルギーの導入はますます加速するでしょう。気候変動対策だけでなく、むしろエネルギーの自立化のために再生可能エネルギーを拡大すべきなのです。

その一方で、ドイツでも原子力発電が必要だという声が挙がっています。これに対して、ハーベック経済大臣は「冬場のガス需要のピークは給湯や暖房によるもので、原発の稼働を求めるのは的外れだ」と指摘しました。ましてや、世界で初めて稼働中のウクライナ・サボリージャ原発が攻撃されたのを目の当たりにしながら、11年前に東京電力福島第一原発事故を経験した日本でも再稼働を求める主張があることは理解に苦しみます。

日本の知的基盤は大崩壊目前
小さくても確かな新しい芽を

経済産業省は3月21日、福島県沖で発生した地震の影響で火力発電所が停止したことなどにより「需給ひっ迫警報」を初めて出しました。本来、電力需要が少ない春に寒波が到来しただけで、あわや停電となったのです。発電所の定期点検などが重なったとされていますが、福島第一原発事故から学んでいません。

電力価格の高騰の原因は、直接的にはこうしたリスクコントロールの甘さです。しかし、本質的には現在の日本の電力市場の中途半端さが原因です。欧米のように送電系統運用者が独立しておらず、発電コストの低い電源から順に使うメリットオーダーも実行されていません。電力市場の抜本的な見直しに踏み込まなければ、電力価格の高騰を解消することは困難です。

さらに、日本は恒常的かつ構造的な円安に陥っています。日本経済を支える「最後の砦」となった自動車産業もEV化の流れから取り残されています。世界のサプライチェーンで原則となった脱炭素でも、製品自体の性能面でも日本は劣り、経済全体が深刻な負のスパイラルに直面しているのです。

太陽光発電に関しても、日本はコストが高いうえに普及が遅く、世界に逆行しています。脱炭素化の中心であり、風力発電より迅速に導入できる太陽光に対して、日本の目標や政策は手薄です。経産省は、FIT制度の設計に失敗し国民負担が膨らんだために、発電コストの低減に終始しています。発電側基本料金や廃棄費用の積立といった細かい規制を泥縄的に追加するのに必死で大局が見えていません。

我々が今、目撃しているのは、日本社会の知的基盤が大崩壊する様相です。崩壊の先に求められるのは、雪の下からの芽吹きのような、新たなステージです。それは古今東西に通じる確かなものでなくてはなりません。老子の言葉に「天下の難事は必ず易きより作(おこ)り、天下の大事は必ず細より作(おこ)る」とあるように、大きな問題は必ず小さな事から始まります。地域からのアクションこそが、その確かな萌芽なのです。

参考:主要国の太陽光発電導入量の目標・見通し

 


[単位:GW]
出典:IRENA Renewable Capacity Statistics 2022、SEIA U.S. Solar Market Insight より筆者作成
※1:2030年は予測値 ※2:SEIA参照

 

PROFILE

認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)
所長

飯田哲也氏

自然エネルギー政策の革新と実践で国際的な第一人者。持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した非営利の環境エネルギー政策研究所所長。
Twitter:@iidatetsunari


取材・文:山下幸恵(office SOTO)

SOLAR JOURNAL vol.41(2022年春号)より転載

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