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CO2排出量が増加? 脱炭素に足踏みするドイツの苦悩 part1

複数要因が招いた
脱炭素の大幅な後退

その結果は、当然のようにCO2排出量増加という悪影響を与えた。
減少が続いていたCO2排出量が昨年は上昇に転じたのである。ドイツ・ベルリンのエネルギーシフトを中心とした研究機関「アゴラ・エナギーヴェンデ(Agora Energiewende)」が今年1月に発表したリポート「ドイツのエネルギーシフト2021年に起きたこと」は、昨年のCO2増加を次のグラフで示している。

ドイツのセクター別のCO2排出量の推移

(出典:Agora Energiewende)

セクター別のCO2排出量をチェックすると、棒グラフの一番下の部分「エネルギー経済(Energiewirtschaft)」の増加がはっきり見て取れる。石炭火力発電がその主たる原因の1つと言える。

リポートによると、ドイツの2021年の年間のCO2排出量は7億7,200万トンで、2020年に比べると、3,300万トン、4.5%も上昇した。新型コロナによる経済停滞で大きく減った2020年の反動が起きたといってもよい。原因については、経済活動の回復に加えて、例年より厳しい冬の寒さで暖房需要が増え、石炭に頼らなければならなかったとまとめている。

この結果、ドイツの2030年のCO2削減目標の達成のためには、2022年以後毎年3,700万トンの大量削減が必要だとしている。しかし、今後さらなる経済活動の活発化が見込まれるため、今年もCO2排出量の増加が懸念されると、リポートは危機感を示している。

求められる再エネの
更なる拡大と課題

しかし、ドイツは、脱炭素化の主力政策としての再エネ拡大を譲ろうとはしていない。

EUタクソノミーで原子力がグリーンへの分類が提案されていることに、政府として強く反対を表明している。今年、2022年末には、東日本大震災直後の春に決めた「脱原発のゴール」が待っている。世論調査では原発撤廃に反する声が増えているのも事実だが、この政策に反するドイツの主要政党は存在しない。

 例えば、今回の風力発電の発電不足への対策は、発電設備の更なる拡大という積極策である。筆者が何度か言及している「あふれるほどの再エネ」が多くの課題を解決するという方針に揺らぎはないように見える。

「電気」、「熱」、「交通」の3つのセクターのうち、最も再エネ化が低かった交通部門では、昨年の新車に占めるEV(電気自動車)+PHV(プラグインハイブリッド自動車)率が急上昇して、ほぼ全体の4分の1を達成してしまった。EVに使う電気はもちろん再エネ電力でなくては意味がなく、そこでは「あふれる再エネ電力」に期待が集まる。

しかし、再エネ拡大にも課題が見えている。再エネ電源で最もシェアの大きい風力発電の発電量が昨年12%以上(前年比)減っただけでなく、その設備追加も停滞しているのである。2021年の風力発電の年間導入実績は、わずか1.7GWであった。そのうち、今後の主役となる洋上風力に至っては、導入ゼロである。

ドイツ政府の目標は、2030年時点での風力発電の導入量合計を91GWとしている。しかし、昨年までのトータルは65GWで、この9年間でさらに26GWの導入を必要とする。昨年は1.7GW、一昨年は少しましで1.9GWであったが、このままでは達成は困難であろう。あるドイツのエネルギーの評論は、昨年の導入実績をについて「あまりにも大きな不足」と手厳しい。

次回、「ドイツに見る
脱炭素とエネルギー費高騰」

新型コロナという異常な状況も重なり、ドイツにとって、今、脱炭素の進展は“踊り場”状態である。重要な中間チェックポイント2030年に向け、ここ2、3年がまさに正念場になる。

次回は、エネルギー費高騰の嵐とドイツへの影響、今後の予測などについて、お話ししたい。日本の資源エネルギー庁も認めるように、欧州市場の動向は日本の市場にも少なからず影響を与えるようになってきている。ドイツの現状は、日本も知らなければならない情報である。
 

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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