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台風停電に救い。 太陽光発電所が充電ステーションに!

台風15号による大規模停電のなか、人々の笑顔が集う場所があった。千葉県匝瑳市の太陽光発電所で“電気の炊き出し”が行われていたのだ。「スマホの充電ができて救われた」という声が多数聞こえた。

非常用電源になる太陽光発電

この秋、強大な台風が猛威を振るい、千葉県を中心に東日本各地に甚大な被害をもたらした。なかでも多くの人々を悩ませたのが、復旧の目途さえ立たない、長期にわたる大規模停電だった。
 
こうした状況にあって、改めて注目を集めたのが、非常用電源としての太陽光発電の存在だ。自宅の屋根に太陽光パネルを設置している家庭では、パワーコンディショナの自立運転機能により、地域が停電していても電気を使うことができた。太陽光発電協会が台風15号について行った調査では、住宅用太陽光発電ユーザーの約8割が、停電時に発電設備を有効活用できたと答えている(※)。
 
通常は全量売電している事業用太陽光発電所であっても、自立運転機能付きのパワーコンディショナを備えていれば、発電した電気をその場で使用することができる。住宅用と違って発電量が多いので、万一の場合には、多くの地域住民に電気を供給する“充電ステーション”とすることも可能だ。
 

※災害時(台風15号)における太陽光発電の自立運転についての実態調査結果。停電の規模が大きかった千葉県において2019年9月20日~10月10日にヒアリング調査(ヒアリング件数:486件)。

 


“電気の炊き出し”で被災者支援

台風15号による停電に際し、いち早くこれを実践したのが、千葉県匝瑳市でソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)に取り組む市民エネルギーちば株式会社。停電が長引きそうだとの情報を受けて、停電の翌日には、自社「第一発電所」の前に充電ステーションを立ち上げた。発電所に設置された5台のパワーコンディショナから直接電気を取り出し、誰でも無料で、携帯電話やスマートフォン、ノートPCなどの充電を行えるようにしたのだ。
 
無料充電ステーションは、停電が復旧するまでの6日間開設された。近隣の人々のべ150人ほどが訪れ、充電難民となる危機を救われた。利用者からは「匝瑳市役所にも充電所があったが、いつも行列ができていたので、ここですぐに充電できたのはありがたかった」「充電をしている間、同じ境遇にいる人たちと愚痴を言い合うことで気晴らしができた」など感謝の言葉が寄せられたという。「ここで充電できるとは知らなかった。友達にも教えてやりたい」という声もあり、実際、知人に聞いてやってきたという人は少なくなかった。この充電ステーションは、さながら“電気の炊き出し”とでも呼ぶべきものだったのかもしれない。
 
市民エネルギーちば共同代表の椿茂雄氏は「私たちの設備は大きな被害をまぬがれ、発電し続けていたので、地域のために役立てたかった」として、次のように話す。「太陽光発電所は防災拠点にもなり得るものです。停電が起きたら地域に開放したい、という想いは会社設立当初からありました。今回、少しでも貢献できたなら嬉しいのですが、同時に多くの課題を発見することにもなりました。」
 

地域との共生を目指して

椿氏のいう課題とは、まず、すべての自社発電設備を自立運転可能なシステムにしていくことだ。全量売電を前提とする従来の事業用太陽光発電においては、余剰売電が基本の住宅用とは異なり、自立運転機能付きパワーコンディショナは必ずしも一般的ではない。そのため、停電時に地域に直接電気を供給したいと考えても、機械的に不可能な場合が少なくないのだ。市民エネルギーちばでは、同社が運営する全発電所で、自立運転機能の強化を目指していく。
 
また、「人的リソースをはじめ、災害時の体制づくりも急務」だと椿氏は語る。平時から地域との連携を密にし、いざという時には一丸となって取り組める仕組みをつくっておくことが大切だという。市民エネルギーちばでは、昨年3月、売電収益を基金とする「村づくり協議会」を立ち上げ、地元の人々とともに地域課題の解決に取り組んでいる。今回の経験を踏まえ、今後いっそうの拡充を図っていく考えだ。
 
地球温暖化の影響もあり、台風や暴風雨が激甚化し、それに伴う大規模停電も珍しくなくなった。非常用電源、防災拠点としての太陽光発電所の存在意義は高まるばかりだ。しかし、その真価を発揮させるためには、地域との共生が不可欠だともいえるだろう。市民エネルギーちばの試みから、学ぶべきものは多い。
 



人々の笑顔が集う、無料充電ステーション

 


無料充電ステーションが設置された太陽光発電所

 


市民エネルギーちば共同代表の椿茂雄氏

 


取材・文/廣町公則
 

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