東京オリンピックに向けて 期待される水素エネルギー活用
2016/08/02
エネルギー自給率がわずか6%の日本において、水素エネルギーの可能性がとても期待されています。経済産業省は、2014年6月に策定した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」に新たな目標や具体的な数値を盛り込み、改訂版として2016年3月に公表しました。
着実に歩みだしている水素社会の定着へ向けて
政府は国の強靭化を目指して分散型エネルギーを促進しており、その中で水素社会を目指す国家戦略が打ち出されています。
東京都では、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて、中央区晴海に建設する選手村を水素エネルギーで電力などを賄う「水素タウン」とする方針を決めました。選手たちが移動に使うバスも水素を燃料とする燃料電池バスが使われる予定です。さらに、東京都では同年までに燃料電池自動車を6000台、燃料電池バスを100台導入すると同時に、エネルギーを補給する水素ステーションを35ヶ所設置する目標を掲げています。
昨年末に東京都江戸川区が主催した「水素エネルギーシンポジウム」でパネルディスカッションのファシリテーターを務めさせていただいた際に、地域社会での水素エネルギーの利活用について議論しました。東京ガスが水素関連の実証事業として
水素ステーションの建設・運転をしていたり、トヨタ自動車が燃料電池自動車「MIRAI」の開発を加速化したりと、先進企業による取り組みが紹介され、水素社会実現へ向けて着実に動き出していることを実感しました。
これまでの紹介で、水素社会の実現はまだ先のこととお感じになるかもしれませんが、身近なところで水素エネルギーの利用がすでに始まっています。燃料電池自動車は2014年12月に発売されており、2015年には累計15万台を突破する勢いで普及している家庭用燃料電池「エネファーム」にも水素関連技術が使用されています。
水素エネルギーは、CO2を排出せず再生エネルギーを活用できクリーンであることや、燃料電池の活用によって高いエネルギー効率が可能など、メリットが多いですが、本格的な利活用に向けては課題が山積みです。まずは、安全性の確保。水素は燃えやすく金属をもろくする性質があるため、水素の製造から貯蔵・輸送にかかわる技術開発を進める必要があります。さらに水素エネルギーの販売価格を下げることも必要です。インフラを整備して需要を確保し、水素エネルギーがガソリン並みの価格帯になることで、水素社会が定着していくのではないでしょうか。
「水素・燃料電池戦略ロードマップ改訂版」では、2030年までに発電事業用水素発電の本格導入開始を目標に掲げ、課題解決に向けて動き出しています。加速する水素社会実現への取り組みに期待しましょう。
東京大学 教養学部 客員准教授 松本真由美氏
報道番組の取材活動やニュースキャスターを経て、現在は東京大学教養学部での教育活動を行う一方、講演や執筆など幅広く活動中。NPO法人・国際環境経済研究所(IEEI)理事。
文/大川晶子
※『SOLAR JOURNAL』vol.17 より転載