大手もベンチャーも続々参入! 業界を超えて盛り上がる「電力シェア」
2018/12/26
昨今、再エネ業界で盛り上がりを見せる「シェアリングエコノミー」。電力シェアの価値を最大限発揮するためには、業界の枠を越えて連携していくことが重要なポイントだ。
前回記事:日本の電力流通が変わる? エネルギーは”集中型”から”分散型”へ
再エネの環境価値を
最大限活用
「昨年春ぐらいから、大手企業も出資するようになり、電力シェアリングエコノミーの流れが急にやって来ました。もう黎明期は過ぎました」。
そう話すのは、ベンチャー企業の電力シェアリング社長、酒井直樹氏だ。同社は今年、環境省の「平成30年度ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2削減価値創出モデル事業」に採択された。
この事業の狙いは、温室効果ガス排出量の削減目標の達成に向けて、再エネのポテンシャルを最大限かつ効率的に活用すること。そのために、太陽光など再エネ発電の自家消費によるCO2削減価値について、十分に評価できるシステムの構築を推進している。
住宅用太陽光発電の余剰電力は、送配電網を使って電力会社に高い値段で売っている。この余剰電力の売価には、カーボンフリーで作ったという環境価値も含まれる。
その一方で、自家消費分は再エネ100%にも関わらず、現状の電力システムでは火力発電などの電気と混じってしまい、その価値が正確に評価できず埋没してしまっているのだ。その価値は2000億円に達するともいわれている。
それをブロックチェーン技術で見える化し、スマートコントラクトで再エネ電気の価値を買ってくれる人、例えば観光地で電動モビリティをレンタルするドライバーなどに使ってもらうことができる。
そこで同社は、ソフトバンクなどとコンソーシアムを組み、鳥取県米子市と神奈川県川崎市の個人住宅で注目すべき実験をした。
太陽光発電の自家消費分発生値を1分ごとに計測し、リアルタイムでサーバーに送信する。そのCO2削減価値を、香川県豊島でパーソナルモビリティレンタルサービスを展開する「瀬戸内カレン」の持つ電動バイクの充電に使われる電力に遠隔移転する。
これをブロックチェーン上で、1kWhに相当するCO2削減価値を3円で約定・取引するというライブデモに成功したのだ。
業界を超えた融合がポイント
もう1社、環境省の事業に採択されたのがデジタルグリッドだ。同社は、三菱商事など27社からの出資で設立。「デジタルグリッド技術」を根幹とした、自家消費される再エネのCO2削減価値を事業者向けに取引・決済できるシステムを構築しようとしている。
このシステムは、事業運営を100%再エネで調達することを目標に掲げる「RE100」に加盟したいという企業にとっても効果的だ。なぜなら、個人住宅から出てきた再エネの環境価値を、企業が引き取れる仕組みだからだ。
デジタルグリッド技術は、元・東京大学特任教授で同社会長の阿部力也氏が発明したデジタルグリッドルータ(DGR)、デジタルグリッドコントローラ(DGC)という機器、またこれらと連携しながら電力取引機能を受け持つデジタルグリッドプラットフォーム(DGP)により構成される。
この技術なら、クラウド上で環境価値の取引や電力の売買がリアルタイムでできるようになる。また、「機器には気温・気圧センサーがあり、天気も把握できます。例えばコンビニに導入すれば、何曜日の何時くらい、晴天ならこれくらいの客が入るというデータが取れます」と、同社社長の越村吉隆氏は話す。
同社は、埼玉県さいたま市の浦和美園地区で、新たに建設される予定のスマートハウス(戸建て)と、大型ショッピングセンターのイオンモール及びコンビニのミニストップの間で、電力融通の実証試験に取り組んでいる。
ここでは、スマートハウス5戸に対し、DGRと約5kWの太陽光発電、蓄電池を設置。同時に、5戸の間を自営線(特定送配電事業者が電力供給のために自ら敷設した電線)で結ぶ。これにより、5戸の間で太陽光発電により蓄電された電力を常時・非常時ともに融通できるという。
取材・文/大根田康介
SOLAR JOURNAL vol.27(2018年秋号)より転載