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重要なのは「安売り」ではない? 自治体新電力が生き残るポイントとは

自治体新電力が生き残るために必要なのは、単なる"安売り合戦"ではない。岩手県久慈市の「久慈地域エネルギー」は、再エネ設備の導入から少子化対策の方法を模索するなど、地域に根ざした運営を目指している。エネルギージャーナリストの北村和也氏が、地域電力の本質を解くコラム第3回(後編)。

前記事:自治体新電力が巨大都市と連携!? 「久慈地域エネルギー」の事例

地域の新電力だから
できる取り組み

久慈市の公共施設と参加した民間企業などの事業所への電力供給が確保され、久慈地域エネルギーの実質的な初年度事業は早くも黒字となるのは間違いない。今年からは、一般家庭への供給がスタートする。資本参加するLPガス販売会社が、ガスとのセット販売を取次店の形で行うのである。また、別の資本参加企業の保有するメガソーラーからの電気を久慈地域エネルギーが供給することを進め、さらに別の参加企業が保有する土地への太陽光発電設備の導入も共同で検討している。



毎月開かれる会議には、資本を入れたすべての民間会社と市役所が参加する。営業戦略を始め、前述した各種の事業を検討している。

中でも久慈市は、CO2削減のため再エネ設備の導入を促進したい考えが強い。会議では久慈地域エネルギーがどう手伝えるかの議論が何度も行われており、いわゆるTPO(第三者所有方式の太陽光発電)の検討も開始した。さらに、人口減に直結する少子化対策について、久慈地域エネルギーの利益の一部を使いながら、子育て支援に役立てる方法も模索している。

もう1つ付け加えたいのが、電力以外の「熱」、「交通」への展開である。あまり知られていないが、久慈市には久慈バイオマスエネルギーという国内最大級の民間の熱供給会社がある。地元から出るバーク(木の皮)を使い、60もの巨大ハウスで菌床シイタケ栽培を行って、商業的に成功している。久慈地域エネルギーは将来の連携を目指している。また、自動運転を含めたEVなどによる再エネ電力の交通エネルギー利用を視野に入れ始めた。久慈地域エネルギーの社名に、「電力」ではなく「エネルギー」が入っている理由でもある。

久慈地域エネルギーでは、このように地元の民間企業+自治体という地元に目が向いた体制を基盤に、まさしく有機的な連携が行われている。

メインテーマは
『安売り』ではなく『幸せ』

最近、地域や自治体新電力の将来を悲観する声が上がってきている。福島電力などの破綻や自治体新電力の雄と言われる福岡県のみやまスマートエネルギーの経営不振などが背景にある。原因は様々であろうが、地域や自治体新電力の原点を失っていないか検証が必要である。

このコラムで何度も取りあげているように、もともと、地域や自治体新電力の持つ付加価値は、安売りとは別のところにある。地域内で経済循環を起こし、地域活性化につなぐという広い価値が「売り」である。私がケアをしている各地の地域新電力では、電気料金の安さだけを看板にしないよう心がけている。地元貢献を感じて切り替えを行ってくれるお客さんは実際に存在している。

地域の外から見ると、この『地元意識』という価値は、何かふわふわした捉えどころのないものに感じるであろう。一時期もてはやされたあのブータンの『幸せ』に似ているような気がしてならない。実は少し広いエリアである地元岩手県の考え方と共通点がある。

昨年秋に発表された、岩手県の次期総合計画の素案には、『一人ひとりの幸福を守り育てる姿勢を、復興のみならず、県政全般に広げ、県民相互の、さらには、本県と関わりのある人々の幸福を守り育てる岩手を実現する』とある。自治体運営の最重要方針である総合計画に、抽象的な「幸福」「幸せ」が提示されるのは異例である。しかし、背景として、「他人とのかかわり」や「つながり」を大切にする岩手の社会観があるという。

岩手の一部である久慈市、そして、久慈地域エネルギーにも、地元意識や自治体新電力設立の理念として同様のものが見られる。

もちろん、地域や自治体新電力は経済的な価値の地域への還流を目指しており、結果を数値化されることを前提にしている。しかし、最終的な目標である地域活性化は、単純な数字ではない「他人とのかかわり」や「つながり」と大きな関連があるではないだろうか。

久慈に限らず、どの地域でも、地元を愛し、地元を大切にし、地元の衰退を悲しむ気持ちは、私のような地域外の人間が考えるより何倍も強いはずである。複数の地域や自治体新電力にたずさわる人たちとの度重なるやり取りでいつもそれを感じてきている。

「久慈地域エネルギーの目標は、お金儲けではない。久慈市を元気にするためだ」と、久慈に来るたび繰り返し耳にする。安売り合戦とは一線を画した付加価値が強みであり、これによってこそ、地域や自治体新電力は確実な生き残りをはかることができると確信する。

プロフィール

エネルギージャーナリスト
日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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