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カリフォルニア州では蓄電池導入拡大が加速化! 大規模森林火災対策にも

近年、カリフォルニア州は広範囲に被害をもたらす火災に襲われ、大規模な停電の実施を余儀なくされた。山火事の危険度が高いコミュニティのレジリエンスを強化するため、同州は既存の蓄電池用補助金プログラムに特別枠を取り入れた。

※画像は、2018年にカリフォルニア州ロサンゼルス郊外で起こった記録的な山火事「ウルージー」。

火災多発地域に蓄電池を
補助金制度新設で導入が拡大

昨年9月、カリフォルニア公益事業委員会(CPUC)は、山火事の発生率が高い地域の低所得層コミュニティに、より多くの蓄電池、または太陽光発電と蓄電池のセット導入を促進するために特別予算を割り当てた。この特別予算はSGIP(Self Generation Incentive Program)と呼ばれるプログラムを改定したものである。

SGIPは、自家発電補助金プログラムとして、2001年にカリフォルニア州の温室効果ガス排出の削減とグリッド(系統網)の安定化を促すために設定された。コージェネレーション(熱電併給)システム、風力、蓄電池、そして燃料電池などの自家発電設備に補助金が支給される。

SGIPの開始から2019年末までの予算は合計5億170万ドルで、そのうち80%が蓄電池に割り当てられた。蓄電池の予算は、住宅用と非住宅用の2つのカテゴリーに分けられており、住宅用は10kW以下、10kWを超えるものは商業・産業用に分類される。

SGIPは、申請数が増えると補助金額が低下する仕組みで、5つの段階(ステップ)に分かれている。予約申請の合計額が、地域の電力会社(4社)に割り当てられた予算に達すると補助金額が下がる仕組みだ。

具体的には、ステップ予算に達するたびに補助金額は0.05ドル/Wh下がるようになっている。しかし、もしプログラムが開始して10日以内に各ステップ予算に達した場合、0.05ドル/Whではなく、2倍の0.10ドル/Wh下がる。つまり、申請が多ければ、補助金額の下がり方に加速がつき、資金効率を高めているのだ。さらに、ITC(Investment Tax Credit)と呼ばれる連邦政府の「再生可能エネルギー導入投資税控除」を利用する場合、非住宅用に限り、従来の補助金額の72%と、低く設定されている。



さらに2017年から、蓄電池総予算の25%は「公平(Equity)」と呼ばれる新しいカテゴリーに取り分けられた。非住宅用公平は、地方自治体、州政府機関、教育機関、NPOにより導入される蓄電池で、導入される地域が低所得、または汚染度が高いなどの環境的に不利な立場に置かれたコミュニティに限られる。住宅用公平は、一世帯および多世帯の低所得者向け住宅となっている。

今年1月7日時点で、SGIPによって導入された蓄電池は185MWを超え、支払われた補助金は総額2億3100ドルとなる。システム数では約8500となっている。さらに、予約済みの蓄電池は157MW(1億1550万ドル)で、予約申請中の蓄電池は約30MW(1770万ドル)となっている。

カテゴリー別に見ると、住宅用が総導入数の90%を占め、非住宅用は総導入出力の75%以上を占める。

計画停電による火災対策
電力供給の安定が求められる

2018年11月、 カリフォルニア州で史上最悪の山火事といわれる「キャンプ・ファイヤ」が起こった。それは翌年になり、同州の電力大手パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック(PG&E)の送電線からの発火こそが原因であると明らかになった。

同州は土地の乾燥、強風、高気温、低湿度により、火災が起こりやすい。そこで、「キャンプ・ファイヤ」のような惨事を防ぐため、PG&Eと他のカリフォルニア州の大手電力会社は「公安遮断(Public Safety Power Shutoff)」という名のもと、計画停電の実施に取りかかった。

この計画停電は、山火事の危険度の高い地域が対象となっている。電力会社が山火事になりそうだと判断した場合、火災の発生を回避するために、積極的に電力を遮断する。その場合、数時間から数日にわたり、居住者への電力供給が途絶える。

実際、昨年10月末、強風による火災の拡大が懸念されたケースがあった。火災は広がらなかったものの、破損した電線からの出火で被害を拡大させないために、電力会社は予防措置としてカリフォルニア州の北部と中部で大規模な計画停電を行った。しかし”計画“停電のはずが、電力会社が具体的な時間や日程を通知せずに電力を遮断し、それが数日に及んだことで、地域の住民や企業に大きな打撃を与えた。

蓄電池を導入することで、このような電力会社による計画停電の影響を抑えることができる。しかし、まだ全てのカリフォルニア州の電力消費者にとって、蓄電池は「お手頃価格」とはいえない。

そこでCPUCは昨年末、山火事防止に特化した新しい予算枠を作るため、SGIPの既存の予算を再配分した。この新しい予算は、山火事の危険度が高く、かつ低所得層のコミュニティへ蓄電池導入を促すことが目的で、その予算額は1億ドル。「公平回復力(Equity Resiliency)」という名のもと、補助金は1Wh時当たり1ドルで、基本的に蓄電池導入コストの100%を賄うことになっている。

ちなみに、これは現在住宅用蓄電池に支給される補助金額(ステップ5)の4倍となっている。さらに補助金額は固定されていて、SGIPのように段階的に下がらない。「公平回復力」予算への補助金申請は2020年4月1日から開始される。

火災、さらに強風を理由に電力供給の途絶を経験したカリフォルニア。同州の住民や企業の電力会社への不満、不信感は高まり、蓄電池導入で対策する傾向が強くなっている。


PROFILE

モベヤン・ジュンコ
太陽光発電電池メーカーで7年間産業経験を積んだ後、2006年から太陽光発電調査会社米ソーラーバズでシニアアナリストとして活躍。2013年よりジャーナリストとして、米国の太陽光発電政策や市場トレンドに関する記事を日欧米のメディアに多数執筆。


文/モベヤン・ジュンコ

SOLAR JOURNAL vol.32(2020年冬号)より転載

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