編集部からのお知らせ

FIT電源は誰のものか ~【前編】特殊な電気と獲得を巡る実態

再エネ電力を高い固定価格で買い取るFIT制度。その効果は非常に大きく、着実に日本の再エネの量は拡大してきた。日本の再エネ電力の多くはこのFIT電源である。このFIT電源は誰に使う権利があるのか?エネルギージャーナリスト北村和也氏による連載コラム第23回。

再エネ電力とFIT制度

FIT電源は特殊な電源である。

東日本大震災後生まれた、再エネ電力を拡大するために高い固定価格で買い取る制度がこのFIT制度である。その効果は非常に大きく、着実に日本の再エネの量は拡大してきた。

一方、10月末の菅首相の2050年カーボンゼロ宣言で、有力な脱炭素達成の手段として再エネはこれまで以上に注目を浴びることになった。日本の再エネ電力の多くはこのFIT電源である。今回は、このFIT電源は誰に所属するのか、誰に使う権利があるのか、考えてみたい。前後編の年越し2回を予定している。

FIT電源の取り扱いを巡る日本の特殊状況

 
冒頭で書いた通り、FIT制度による発電は特殊といってよい。それは、国民全体が多くの賦課金を払うことによって、はじめて成り立っているからである。再エネ発電所の事業性を確実にするために賦課金での補助を決めた制度と言い換えられる。

つまり、FIT発電所は国民それぞれの賦課金が間接的に加わって建設されており、この観点から考えると、その電力の概念的な所有権の一部は需要家としての国民に属するとみることもできる。発電事業者が、自分が作ったものだからFIT電力を完全に自由にできるとは言い切れないと考えられる。

実際に、政府は賦課金を受けている発電を再エネ電力と呼べないとしている。これには発電事業者の“利益の二重取り”を禁止するという考えが背景にある。私も前段で書いたが、確かにここまでは理屈が通っているように映る。

しかし、ここからの流れが、日本では世界的な共通認識とは別の方向に進む。あえて、日本は間違っていると言いたい。

世界ではこうである。賦課金を支払っているのは需要家なので、そのメリット(=再エネ電力を使うこと、または、使っている電力を再エネと呼べること)は需要家に帰属するという考え方である。要するに『受益者負担』という、誰もが理解できる当たり前の簡単な原則である。

日本政府は「FIT電源を再エネと呼んではいけない」と言っているが、これは発電事業者に対しては理解できるが、賦課金を払い、最終的にその電気を使う需要家にとっては正しくない。例えば、ドイツでは、FIT電源は再エネ電源であり、需要家は普通に家庭などでコンセントに流れてくる電力(一定割合)をそのまま再エネとして使えている。

政府は、賦課金を負担している需要家の権利を無視している。権利もないのに勝手に再エネ価値を分離して、「非化石証書」として入札で売っているのである。私も需要家の一人で賦課金を払っているが、再エネ価値を取り上げるとの何の相談も受けたことも了解したこともない。

脱炭素宣言で急拡大するFIT電源の獲得合戦

前項で、日本のFIT電源の扱いが特殊だと書いた。しかし、国内のシステムはこれを元に動いている。よって、現状ではこれをベースに考えるしかない。

日本では、FIT電源を「特定卸制度」で特定の小売電気事業者が扱うことができ、さらに「非化石証書」を付けることで、再エネとして扱うことができる。制度のスタート時は、FIT電源は、ほぼ発電事業者の利益、事業性としてしか関心がなく、再エネ利用にそれほど注目が集まらなかった。政府も再エネ価値を発電事業者の二重取りとの関連でしか考なかった可能性もある。

しかし、情勢は一変した。

10.26の脱炭素宣言で、再エネ電力に対する欲求は爆発的に拡大することが確実である。すでに、企業や自治体は再エネ確保に動き始め、目ざとい新電力などが卒FITやFIT電源を獲得のために地域へと殺到している。

だが、ちょっと待ってもらいたい。

活発化する「特定卸」制度の実態

その前に、特定卸制度がどう使われているか少し見てみよう。

私が関わっている地域新電力では、すでにごく普通にこの制度を利用している。基本的には、地域内のFIT電源を地域内に供給するという「エネルギーの地産地消」を実現すること、供給するFIT電源率を上げるためがその目的となっている。地域新電力を構成する企業や関連会社などが保有する発電施設からを電力使うのがほとんどで、非化石証書をつけて、実質再エネ電源とするまでには至っていないケースが圧倒的である。

しかし、今後、地域内の自治体や事業者の脱炭素志向が拡大することは必至で、新しい利用方法が増えていくのは確実である。

一方、全国規模の新電力などの多くは、RE100企業や都市自治体などの需要を受けて、FIT電源の獲得に走っている。RE100や脱炭素実現に向けて動く需要家をすでに確保したり、これからの増加を見越したりしており、確実な利益が期待できる。

もともと、都会ではFIT電源を含む再生エネ資源が需要に比べて非常に少ないため、必然的に豊富な地方を回ることになる。もちろん、彼らの行為は全く非難の対象でもなく、正しいビジネス行為であることをここで強調しておく。

飛び交う「プレミアム価格」

しかし、その獲得手法は、なかなか苦しいものがある。地域や自治体新電力などと違って、彼らには地元に強い伝手(つて)が無い。人手をかけて日本中を駆け巡っている実態も知っているが、結局、切り札は「プレミアム」である。要するに、1kWhあたりのプラスアルファのお金を払って、FIT電源の「特定卸」契約を増やすしか、手段がないようにも見える。

ここでは、どのくらいのプレミアムの金額が飛び交っているかは示さないでおく。しかし、一定のインパクトのある額であり、発電事業者にとってみれば、おいしい餌であることは間違いない。複数の新電力が都会からやってきて、同じ発電事業者へのプレミアムの値上げ合戦さえすでに行われている。

また、一見、地域にメリットをもたらすような新しい仕組みを、地域に提案する例も多い。そして、少なくないFIT電源は地域外に流れ始めている。そこには、プレミアムにつられた発電事業者もいれば、知識が追い付かずなんとなく「広域連携」という言葉を良いことと思いこんだ自治体関係者も存在する。

私は、やや躊躇しながらも、ここであまりきれいでない言葉を使う。「そこには、本来の目的に外れた浅ましい実態がある」と。
この説明は、次回に回すつもりであるが、そこでは、FIT電源を地元で使うべき根拠や理由を含めてお話しするつもりである。

次回、後半へ

エネ庁の委員会で議論が進んでいるように、FIT電源に非化石証書を付けた場合の呼び方が変わる方向である。

これまでの「実質再エネ電源」から実質が取れて、「再エネ電源」になる。もともと、この方式の電源は、RE100やRE Actionにもカウントできていたが、これで堂々とお墨付きがつく。

FIT電源獲得を巡る様々な動きはさらに活発になる。資源を持つ地域は、心して対応しなければ、また大きな損を被り、地域活性化が遠のくことになる。

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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