太陽光発電所の収益を上げる「次世代型O&M」3つの視点
2021/09/20
太陽光発電所の運営に欠かせない「収益」を、O&Mでどのように高めるか? 一般社団法人新エネルギーO&M協議会の専務理事・大門敏男氏の講演より、「次世代型O&M」の3つの視点について、ご紹介する。
「まっとうな発電所」が事業の前提
チェックすべきポイントは?
太陽光発電所の運営継続に欠かせない「収益」を、どう高めるか。
2021年9月時点で60以上の企業・団体が加盟する一般社団法人新エネルギーO&M協議会は、太陽光発電所の収益向上に貢献する「次世代型O&M」を提唱している。
太陽光発電所のO&Mに関するスペシャリストであり、同協議会の専務理事を務める大門敏男氏の講演より、次世代型O&Mを支える3つの視点について、お届けする。
まず、収益を上げられる事業運営の前提・出発点にあるのは、「まっとうな発電所」であること。というのも、そもそもの造りに問題がある発電所が多数あるからだ。
「発電所の保守点検を任せているO&M事業者は、新設時の瑕疵に由来する修補請求等の支援をしてくれるでしょうか? 保守点検では通常踏み込まない以下のような点まで確認することが、『まっとうな発電所』であるかどうかを判断するポイントです」(大門氏)。
☑ シミュレーションに⽐べて発電量が著しく少ない
☑ そもそもの⽴地が不安(洪⽔浸⽔リスクや急斜⾯設置など)
☑ ⾒るからに脆弱な造り
☑ 周囲への⼟砂・⾬⽔の流出
☑ 短期間に顕在した多数の不具合個所
☑ 設計/完成図書がない
次世代型O&Mを支える
3つの視点とは?
「次世代型O&Mの⼀つひとつのオンサイト業務は、外形的には既存のものと同様です。違いは、出来合いのチェックリストで定型的にやるか、3つの視点に照らして⽬的意識をもってやるか。そして、それらを体系的に整理してトータルで提供することで、アウトプット=収益性が高められます」(大門氏)。
では、その3つの視点とは? 順にご紹介していこう。
視点1 ⻑期的視点で発電量を維持すること(発電阻害要因の除去)
発電量の長期的な維持にはモニタリングが必須だが、「一般的な遠隔監視システムは、その時々の相対比較のみで、発電量の長期的な把握のためには不十分。遠隔監視システムからCSVデータをダウンロードして発電量の長期的な傾向を解析し、その結果を踏まえて検査・点検する必要がある」と大門氏は言う。
下記の2つのグラフは、同じ太陽光発電所の「発電量を日射量で除した値」の12ヶ月移動平均とPCS間の相対比較の推移を示したものだ。前者の下落が始まったのとほぼ同じ時期から、後者においてオレンジ色と青色のパワコン系統に大きな下落が始まっている。
しかし、このように発電量が低下していても、点検結果の報告書には、発電量の阻害要因につながるようなコメントがなかったり、発電量の下落を把握することなく「問題なし」とされたりする場合もあるという。
発電量の長期的な解析がなければ、そのような報告を鵜呑みにせざるを得なくなってしまう。
視点2 外来の事故を適切に制御し、事故のリスクコストを最⼩化すること
次世代型O&Mでは、太陽光発電所における事故を大きく3つに分類する。
太陽光発電所において甚大な被害をもたらす「高額事故」の大半は、立地を含むそもそもの発電所の造りに由来することから、冒頭で説明した「まっとうな発電所」であれば回避可能だ。
落雷や盗難など「中規模/小頻度事故」は、損害保険での対応に馴染む。
飛び石によるパネル破損や動物の衝突による柵塀の破損といった「少額/多頻度事故」は、現状では損害保険会社が引き受けてくれているから良いが、本来は「保険」には馴染まない。
実際、こうした損害で、年に数件の保険請求をしている発電所もある。損害が拡大する恐れのある場合を別とすれば、都度修繕するのか、一定程度まとめて修繕するのかなど、維持管理計画の中で「費用」として算入したり、小額の防災対策を講じたりするのが本来のありかただ。
以上のような事故は、故障や不具合の把握が中心である保守点検では、ほぼ防げない。
そのため、次世代型O&Mでは、最初に、発電量解析と設計/完成図書、過去の保守点検の記録なども参照し、そもそもの発電所の造りの検査(「発電所検診」)を行う。
発電所検診の実施を前提として、定期的な発電量監視と日常のアラート監視により、肝心の発電量に異常が生じたときには機動的に対応することとし、従来型の保守点検を必要最小限にすることで、発電量の維持と長期的な費用削減の両立を目指す。
視点3 20年間を⾒通して、発電事業に係る総費⽤を削減すること
FIT20年間の収益性を高めるためには、上記のとおりO&Mそのものの見直しも必要だ。発電所の造りを見直し、今後生じる費用を想定して、トータルで費用を削減する余地がないか検討する。
例えば、保守点検等の作業の容易性を高められないか、法面・地盤その他の進行性の劣化・不具合を抑えられないか、一番費用のかかる雑草対策のコストを防草シートによって削減できないか、といったことだ。雑草対策では、「防草シート自体の品質」とシートを敷設する「施工の品質」とが評価されないまま、品質の良くない防草シートが使われている例も多く、注意したい。
いずれにしても、維持管理および総費用の計画を策定しているかどうかが鍵となる。次世代型O&Mでは、発電所検診を踏まえ、20年間またはそれ以上の維持管理計画・費用計画を策定する。維持管理の全体像を把握することで初めて、費用削減の検討をスタートできる。その費用をにらみながら、発電事業者自身でできることはDIYを推奨・支援する。
大門氏が示す買取価格14円の事例によれば、次世代型O&Mにすることで、全体の費用は1,130万円から790万円程度にまで圧縮することが可能だという。
その試算の詳細は下記の通り。計画修繕の中に品質の確かな防草シートの敷設を含めることで、20年間合計で、250万円から40万円にまで、雑草対策の費用を200万円以上も削減できるというのだから驚きだ。
出典:新エネルギーO&M協議会
(注)上表中、取得価格計・発電収入は広告の数値をそのまま使用。①の運転・維持管理費は、広告の数値をそのまま使用しているが、多数の必要な費用が算入されていない。
以上みてきたように、太陽光発電所の収益を高めるために求められるのは、まず第一に、事業運営の前提である「まっとうな発電所」にすること。そのうえで、3つの視点に基づくO&Mを実施することだ。
さらに詳しく次世代型O&Mを知りたい方は、下記のボタンから講演動画をチェック!
PROFILE
一般社団法人新エネルギーO&M協議会
専務理事
大門敏男氏