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順風満帆ではない“再エネ先進国”ドイツの苦境(前編)

2019年は、COP25の開催や異常気象の被害により、“気候変動の1年”になったといえる。2020年、再エネの潮流はより大きくなるだろう。重たい腰を上げ始めた日本に比べ、再エネ先進国の状況はどうなのか。エネルギージャーナリスト・北村和也氏による好評の連載コラム第13回(前編)。

2020年は、再エネにとって大きな節目の年になる。

何より、世界でも日本でも温暖化の影響と思われる気候危機が続き、対策が待ったなしである。オーストラリアで続く巨大規模の森林火災の映像は、全世界の人々を恐怖に誘った。昨年の日本を襲った台風は桁違いな被害をもたらし、異常な暖冬が今も続く。個人的な体験から言えば、長く通う青森県にこんなに雪がないのは初めてである。

昨年夏には、温暖化への危機感から全世界で数百万人を超える若者を中心としたデモが沸き起こり、グレタさんを時の人に押し上げた。余計なことだが、グレタさんを揶揄(やゆ)する“おとなげない大人”が少なくないことには怒りを通り越してあきれるばかりである。彼女が糾弾する、何もしないで今の気候危機をもたらした、私も含めた大人たちに必要なのは、恥さらしの批評ではなく、実効ある行動でしかない。

多くの人たちが、この状況を改善するポテンシャルを再エネに求め始めている。パリ協定に象徴される国際的な枠組みの成功や各国の着実なCO2削減は、再エネの利活用の拡大に頼るところが大きい。遅まきながら『再エネ主力電源化』を明言した日本では、今年2020年に発送電分離や新たな電力市場、アフターFITなどの制度改革が目白押しである。この節目を実効あるものにしていけるのか、官民、地域、中央に関わらず、日本全体が問われることになる。

今回のコラムは、再エネ利活用の主役国の1つドイツを巡る動きなどをまとめ、節目となる2020年以降の世界の再エネの行方を一端を占ってみたい。



再エネ先進国ドイツからの発信
5割に近づく再エネ電力量

再エネ先進国と称されることの多いドイツは、今年冒頭に発表された統計で、その呼び名の根拠をまた1つ加えることになった。

欧州最大級の太陽光エネルギー研究所であるドイツのフラウンホーファー研究所ISEが1月2日付で発表した報告書「2019年のドイツの発電状況のまとめ(速報)」で、再エネによる発電量が2,374.1億kWhと全体の46.1%を占め、昨年1年間で5割をうかがうまでになったことが分かった。一方、化石燃料による発電量(原発を除く)がおよそ2,070億kWhと初めて再エネ発電に抜かれ、大きく下回った。

ちなみに、風力発電が全体の電源別で1位となり、全発電量の4分の1にまで拡大した。風力と太陽光と合わせたVRE(可変的再生エネ)は3分の1を超えている。ドイツの再エネ発電にとって記録的な数字が、2020年の初めに示されることとなったのである。

全発電量に対する発電源別の割合と発電量

()内は前年に対する発電量の変化
■再エネ
・風力発電    24.6% 1,272.2億kWh(+15.7%)
・太陽光発電   9.0%  465.4億kWh(+1.7%)
・バイオマス発電 8.6%  444.2億kWh( 0.0%)
・水力発電    3.8%  192.3億kWh(+21.2%)
再エネ合計    46.1% 2,374.1億kWh(+7%)

再エネ以外の発電量を電源別にまとめると以下になる。
■再エネ以外
・褐炭発電    19.7% 1,021.8億kWh(−22.3%)
・天然ガス発電  10.5% 540.5億kWh( 21.4%)
・石炭発電    9.4%  486.9億kWh(−32.8%)
化石燃料合計   40.2% 2,070億kWh(-17.5%)

※合計は石油による発電を含む

・原子力発電   13.8% 710,9億kWh(−1.1%)



石炭、褐炭発電の発電量が大幅減
CO2排出量も大きく削減される

再エネが拡大する一方で、大きく減ったのが褐炭、石炭発電である。ドイツが自産できる褐炭による発電が2割台の減、石炭発電に至っては30%台という劇的な減少となった。フラウンホーファー研究所は、褐炭発電の極端な低下の原因について、「CO2証書の値上がり」、「再エネ電力の拡大」、「電力市場価格、天然ガス市場の低迷」、「電力需要の低下」、「電力輸出の減少」を挙げている。

褐炭、石炭発電の大幅な減少は、CO2の削減に大きく貢献した。ドイツ全体のエネルギーの現状や動向について正確かつ迅速な情報提供を行っているエネルギーバランス作業グループ(AG Energiebilanzen e.V.)のまとめによると、2019年のCO2排出量は7%(5,000万トン)削減と顕著な減少となった。

運にも恵まれた2019年と
石炭発電全廃の意味するもの

実はこれまでの数字などをじっくり見ていくと、「再エネが増えた、増えた」と諸手を挙げて喜べるわけでないことに気付く。再エネの割合が一気に伸びたのは、天候が安定的で全体の電力需要が250億kWh、5%近くも減ったことが大きな理由のひとつである。

さらにコラムの後編で取り上げるが、確かに既存の風力発電は昨年の良い風に乗って大きく発電量を伸ばしたが、特に陸上風車の新規設置は最低を記録し、ドイツ国内の関連業者は瀕死の状態だという。

フラウンホーファーISEの分析のように、褐炭、石炭発電の大幅な後退は、CO2証書の値上がりで発電コストが合わなくなってきたことや天然ガスの値下がりでガス発電にシフトとしたことが大きい。

ドイツは昨年、温暖化対策として2038年までに石炭発電の全廃を掲げる決定をしており、確かに好調な滑り出しともいえる。しかし、褐炭を自国で産出するドイツにとって、石炭発電の全廃は発電を止めるだけでは終わらない。石炭の採掘から、運搬、利用までを含めた大きな産業を自らの手でつぶすという、大きな痛みを伴う改革なのである。

構造転換に5兆円弱の拠出が決定
石炭火力発電全廃への厳しい道のり

年明けの1月中旬、ドイツのメルケル政権は、石炭を産出する4つの州に対して石炭産業の構造転換のために合計400億ユーロ、およそ4兆8,000億円を拠出することを決定した。また、発電所を有するRWEなどのエネルギー会社にも、およそ5,000億円の補償を行う方針である。

ドイツで採掘される石炭は、褐炭と呼ばれる水分や不純物を多く含んだ、品質の低いものである。しかし、これまで長く火力発電に利用されてきており、およそ2万人の雇用があるという。欧州内でCO2削減を強く求められ、さらにコストが合わなくなってきているとはいえ、巨額の拠出金や補償金で厳しく身を切る究極の道へ追いやられているのが実情である。

一方で、昨年大きく増えた天然ガス発電は当面の現実的な選択肢であるが、新たなガスパイプライン設置でロシアに頼ることになる。これに対して国際社会からの非難も沸き起こっている。世界の流れは再エネしかないといって過言ではないが、そこへ至る道筋はドイツでさえ苦しんでいる。



ドイツの再エネの状況を
さらに深ぼる後編へ

ドイツの再エネは快進撃を続けているように映る。しかし、すでに書いたように、ドイツはすごい、お手本だ、と簡単に言い切れることではない。

次回は、フラウンホーファー研究所の報告書が示す他の興味深い数字やベルリンにある再エネの研究機関、アゴラ・エナギーヴェンデの報告書からの情報、さらにドイツのFIT制度の後継であるFIPや入札制度で起きている厳しい現実などをお届けする。

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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