編集部からのお知らせ

新電力は”不健全なビジネス”か? 福島電力の破綻が意味すること

2016年10月に新電力会社として設立し、今年8月に破産手続開始の決定を受けた福島電力。電力自由化に伴う事業スタートから、わずか2年弱で破綻してしまったのはなぜだろう。エネルギージャーナリストの北村和也氏が、地域電力の本質を解くコラム第1回(前編)。

“脱落”する小売電気事業者

資源エネルギー庁のリストで見ると登録小売電気事業者は550社を数えている(12月初旬現在)。登録業者の増加は、さかのぼって11月が12社、10月に20社、9月は0社、8月1社、7月11社とおよそ月平均10社で推移している。最近の傾向として、地域の名前を冠したり地域のガス会社などが申請したりするものが増えているように見える。これはより地域のニーズに沿う形なのかも知れない。

一方で、小売電気事業者、いわゆる新電力にとってあまり美しいとは言えないニュースが散見される。

いまだにインバランス費の未払い問題が解決しないと伝えられる福島電力の破綻は、中でも最も深刻なものであろう。新電力事業の失敗例としてとらえられがちだが、プレイヤーの分析を追っていくと一種の経済事件とも考えられている。つまり、流行りのビジネスが食い物にされたというのである。

また、小売電気事業者の登録第一号のF-Powerが今期120億円もの巨額の赤字を出したことが報じられた。F-Powerはエスコビジネスの先駆者ファーストエスコから分かれた新電力である。自治体などを中心とした顧客獲得で急成長し、あれよあれよという間に業界トップに躍り出ている。売り上げ1600億円は、大きな企業を基盤とする新電力以外では驚異的な規模である。ただし、現在は証券系のインフラファンドの傘下にあるという。

急激な伸びの源泉は単純で、安売りである。筆者がよく知る自治体でも公共施設の一部にそれこそ驚くような安値で電力を供給している。どんな独自電源を持つのかと不思議であったが、今回の赤字を見るとJEPX(日本卸電力取引所)の卸売価格の変動の影響を大きく受けていることがわかる。JEPX価格はこの1年でも猛暑などの異常気象の影響で一時的に高騰することがあり、1kWh100円近くまでなったこともある。後述するが、F-Powerの供給先は特別高圧や高圧の顧客が圧倒的で、卸売価格の変動の影響を受けやすい体質であることが透けて見える。

地域新電力の旗手に
起きていること

さらに、問題は自治体新電力の”優等生”にも降りかかってきている。

日本版シュタットヴェルケとも称され、地域新電力の成功例として何度も紹介されているみやまスマートエネルギーについて、過半数を出資する福岡県みやま市が利益相反取引の調査を始めると複数のマスコミが報じた。内容はやや複雑であるが、みやまスマートエネルギーと同社の40%の株を保有するみやまパワーホールディングスの間の取引に関するもので、両者の社長を同じ人物が兼ねていることが疑問視されている。

みやまスマートエネルギーは一時債務超過に陥るなど事業採算性に苦しんでいるが、その原因の一端がみやまパワーホールディングスとの取引にあるのではないかという見方が広がり始めていた。みやま市では、先ほど行われていた市長選の結果、新しい市長が誕生している。その市長が先頭となって新電力事業のチェックが行われており、今回の動きはその一環である。

問題のルーツと
意味すること

福島電力の直接的な破綻の原因は、地元の不動産屋を通じた無理な顧客拡大路線が根底にあった。その結果、突然電力の供給元を失った顧客は一般家庭を中心に8万に及ぶ。福島電力を含んだバランシンググループ(電力融通を行うことで、インバランスを平準化するための新電力の集まり)には数十の新電力が参加しており、合計10数億円にのぼるといわれるインバランスの未払いの行方は各新電力の事業に直接響く。

一方で、F-Powerの契約先はおよそ4,900あり、ただちに破綻する可能性は低いとみられているものの影響は小さくない。また、F-Powerは、インバランスのコントロールをきちんと行ってないことや違約金に関する契約内容を一方的に変更したことなどで、業務改善勧告を受けている。異常にも見える安売りだけでなく、事業の進め方がルールにのっとって行われていたかも問われている。

個別の事例を見ていくと、それぞれある意味で特殊な課題を抱えていることがわかる。ここで取り上げた例は、明らかに急拡大戦略の中でのひずみといえる。数百の新電力が短い期間に立ち上がった結果として競争が激化し安売り合戦を呼んでいることが背景にあることがはっきりしてきた。また、数が増える中で望ましくない人たちが紛れ込む可能性も捨てきれないということでもある。

こういう事象が起きるとすぐに新電力そのものが不健全で、事業が成り立たないものだ、小売自由化自体がどうだったかと丸ごと否定的なとらえ方を行うものが出てくる。

しかし、結論から言うと、こういう問題の現出は予想されていたことでもある。逆に、今は「うみ」を出すための自由化の中での当然のプロセスであるのかもしれない。今回、あえてネガティブなテーマを取り上げた理由はそこにある。

 

プロフィール

エネルギージャーナリスト
日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

関連記事

太陽光関連メーカー一覧

アクセスランキング

  1. 【終了】2024年4月23日(火)「第29回PVビジネスセミナー」~ 市場動向/PPA・蓄電池の最適化モデル ~...
  2. 太陽光発電所 銅線ケーブルの盗難被害が相次ぐ 銅の価格上昇が背景に
  3. 市場運用者・広域機関に聞く、長期脱炭素電源オークションが目指すものとは?...
  4. 【2024年太陽光ビジネス】再エネは「長期安定電源」になる! 事業環境の整備に必須のリパワリング...
  5. 太陽光パネルの増設・更新を促進! 2024年度にルール見直し
  6. 【受付中】5/28(火) ケーブル盗難のリアルを知るための「太陽光のリスク管理」セミナー開催...
  7. 太陽光発電、盗難保険金が急増 持続的な保険提供が困難になる可能性も
  8. 【地域共生成功モデル紹介】ゼロカーボンビレッジ創出&市民参加型の取り組み...
  9. 太陽光発電所の盗難被害が急増 外国人グループの犯行か
  10. 経産省、新電力ビジネスの経過措置「部分供給」の見直し案 オフサイトPPAへの影響は?...
太陽光業界最新ニュース

フリーマガジン

「SOLAR JOURNAL」

vol.48 | ¥0
2024/01/31発行

お詫びと訂正

ソーラー電話帳 SOLAR JOURNAL メディアパートナーズ