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FIT電源は誰のものか ~【後編】非化石証書を巡る新たな動き

再エネ電力を固定価格で買い取るFIT制度。このFIT制度で買い取られた電気がFIT電源だ。この電気を使う権利は果たして誰にあるのか?地域活性化の視点も踏まえ、FIT電源について深堀りする、エネルギージャーナリスト北村和也氏による連載コラム第24回。

昨年末にFIT電源に関するコラムを書き、それを前編としておいた。(参考『FIT電源は誰のものか ~【前編】特殊な電気と獲得を巡る実態』)それから4か月が経ってやっと後編に入ることができる。間にJEPX高騰の大事件が発生したことが延びた理由である。
さすがに簡単な前回のおさらいが必要であろう。

FIT電源は誰のものか、前編のおさらい

東日本大震災をきっかけに日本でも導入された固定価格買取制度、通称FIT制度であるが、日本ではFIT電源には再エネ価値は無いとされ、その価値は非化石証書(再エネ由来)に分離されている。ところが、世界では一般的にその価値は需要家には与えられている。賦課金を払っているのは需要家であるので、「受益者負担の原則」にも沿っていて、そちらが自然である。

日本では、分離された非化石証書は入札によって原則として小売電気事業者が購入し、需要家に届けられる。入札最低価格として1.3円/kWhというかなりの高値のせいで現状では売却できているのは全体の1%にも満たない。

ところが、脱炭素社会への動きからRE100参加企業などを最終顧客として、非化石証書が徐々に売れ始めている。昨年10月末の菅総理の2050年までのカーボンニュートラル宣言が拍車をかけている。

これらを背景に全国的な事業を展開する新電力が各地の発電事業者へと足を運び、いわゆる特定卸制度を利用してFIT電源を調達し始めている。非化石証書を付ければRE100企業もカウントできる再エネ電源になるからである。電源の取り合いが見えてくれば、売る側が値上げ交渉を行ったり、買う側がプレミアムを付けたりと熱くなる。

これは正しい方向なのかというのが、前回の問題提起であった。

地産地消に外れた特定卸電力の都会への供給

元々、特定卸制度の導入の理由にエネルギーの地産地消があった。
FIT電源をすべて送配電事業者が買い取ることに決める際、地産の電気を地元で使えなくなる懸念があがり、解消するために送配電事業者からの小売りへの特定卸を可能とした。

非化石価値を無理に引き離した一方で、地産地消をうたえるようにしたことはひとつの方策だとも言えるであろう。しかし、これがいつの間にか再エネ価値を必要とする遠く離れた企業やそれをビジネスにする新電力が利用することになった。

中央に売ることで地域が利益をあげられれば良いことだと反論が聞こえる。もちろん、その選択肢は間違ってはいない。しかし、地方にも再エネ電力を欲する自治体や民間企業がたくさんある。環境省の進める「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ宣言」を表明する自治体は、357自治体(4月6日時点)にまで膨れ上がり、その人口規模は1億1千万人に近づいた。

確かに地方は自ら使う何倍もの再エネ電力のポテンシャルがある。しかし、それは地域の資源であり、それをどう扱うかは一義的に地域が主導して決めるべきものだと考える。仮に、地元自治体などに供給する前に都会に売って利益を出したいと地域で考えるとしても、その電力を扱うのは地域の新電力などであろう。そうでなければ、地域資源がもたらす利益の多くがメガソーラーの乱立時と同様に、結局、地域に残らなくなる。

今後、再エネ電力の価値は増すばかりである。
地域発電事業者、地域新電力、自治体が一体となって、その付加価値を地域に落とす戦略をしっかりと構築することが、一つの地域活性化策となるのは確実である。

脱炭素社会に向けて急激に変わる制度

経済産業省は4月1日に「電力の小売営業に関する指針」を改訂した。
再エネメニュー、CO2ゼロエミッションメニュー等など小売電気事業者が作る料金プランの呼び方を規定することを主眼としており、これまで散見された非化石証書なしのFIT電源を再エネ電力などと呼ぶことなどを禁じている。

一方で、「再エネ」表示、「CO2ゼロエミッション」表示の整理を行って、再エネ指定証書+FIT 電気を正式に「再エネ」と呼ぶことを認めた。ただし、FIT電源の説明などが求められているので、詳しくは指針を見てもらいたい。また、JEPX調達・化石電源等に証書を付けた場合は「実質再エネ」となる。
非化石証書付きFIT電源は堂々と再エネがうたえることになるのである。
 
さらに、非化石証書の取引についても大きな変更を目指している。
3月26日のエネ庁の委員会の議論では、新たに「再エネ価値取引市場(仮称)」の創設を提言している。これは、企業などの需要家が市場取引に参加できる再エネ価値の取引市場を目指すもので、これまで小売電気事業者を通じてしか買えなかった非化石証書を企業などが直接購入できることを目指している。

さらに、証書価格の引き下げが俎上に乗り、議論の中では現在の1kWhあたり1.3円から大幅な減額となる0.2~0.3円程度が例示されている。

改訂の背景と議論

背景には、再エネ電力が高く、さらに足りない日本の現状がある。
政府のカーボンニュートラル宣言以来、企業の関心は大きく脱炭素に傾いた。カーボンプライシングの議論や金融の企業への脱炭素化要求など危機感は募るばかりである。1.3円ではとても買えないとの悲鳴が自動車や電機などの大企業からも聞こえてきて、非化石証書購入の簡素化や思い切った値下げが急遽検討されたと考えて間違いない。

もちろん、議論は始まったばかりである。購入できる企業は一定の電力需要を持つ大企業とされていて、そのラインもまだはっきりしない。一方で、再エネ施設の新設や他のクレジット価格への悪影響から証書の大幅値下げへの懸念も表明されている。来年度実施の方向の中で議論の行方に注目していなくてはならない。

地域に与える影響

これらの制度改革は資源を有する地域にとっても大きな影響がある。
小売電気事業者抜きの証書の売買と特定卸制度との関係から始まって、地域新電力などの非化石証書付きのFIT電源を前提とした料金プランの値付けの問題など多岐にわたる。
 
値段が下がることが必ずしも良いこととはならない。
今は売れていない非化石証書が急激に売れ始めて品切れとなり、逆に価格が上昇する可能性はないか。また、安い証書を前提に高いプレミアムを付けてFIT電源を買いに来る新電力などが出現しないか。など、想像は膨らむ。

地域での防衛策として、前述した地域内の連携にとどまらず、地域内循環型のPPAのなど新設再エネの積極的な拡大が重要となる。

 

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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2021/03/25 | 編集部からのお知らせ

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