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震災から10年で鮮明になった課題。再エネに立ちはだかる壁とも通じる

なぜ再生可能エネルギーの普及が思ったよりも進まないのだろうか。その問題の根源は、東日本大震災から10年が経ち鮮明になった日本の課題とも通ずるようだ。コラム「再エネの達人」、今回はISEP所長の飯田哲也氏が“再エネ普及の壁”について語る。

再エネ普及を阻む問題の根源
原発事故やコロナとも地続き

東日本大震災から10年の節目を迎えました。東京電力福島第一原子力発電所事故そのものと10年間の再エネの普及状況、そしてここ1年間のコロナ禍には、日本の機能不全が色濃く映し出されています。これらは地続きであり、根源にある問題は共通です。

これまでの再エネの普及状況を振り返ると、FIT制度はいわば劇薬であり、作用と副作用があります。作用は主に太陽光発電の爆発的な普及です。2019年末時点で約63GW(パネル容量DCベース)に達した点だけは評価できます。

一方で、副作用として系統制約が始まり、2014年に九州電力が系統接続の回答を保留した、いわゆる「第一次九電ショック」にまで発展しました。再エネ賦課金による国民負担は膨れ上がり、次から次に後出しの複雑怪奇なルールが生まれています。省庁の縦割り組織や、自然破壊をいとわないところ構わずの開発も悪影響を及ぼしています。設備認定時に価格が決まり、それがいつまでも残る日本特有のFIT制度では、権利を売買するブローカーが生まれるのは当然です。こうした背景から、再エネ導入には急ブレーキがかかっています。

これらの問題点としては、まず、「エリートパニック」(『災害ユートピア』レベッカ・ソルニット著)があります。これは、非常時にエリートたちが陥るパニックです。彼らは、一般の人々が真実を知ると大混乱を起こすと考えています。そのため、事実を隠そうとして慌てふためき、余計に事態を悪化させるのです。なぜなら、自分たちの権威の源である既存の秩序が崩壊することを極端に恐れているためです。原発事故や新型コロナの問題においても共通です。

もう1点は、政策立案者と現場との間の統合性がまるで機能していない点です。これは意思決定者と実務者などの各層のレベルの問題であり、法的・科学的・社会的に合理的でオープンなシステムに変えていかなければなりません。

ソフトコスト低減の努力を
蓄電池含むデジタル化が糸口

こうした中で再エネ業界に携わる方々に求められることは、太陽光発電設備のさらなるコスト削減です。日本の発電設備のコストは世界的にみてもまだ高く、日本より人件費の高いドイツの太陽光発電のコストは日本の半分程度です。

以前、かつて太陽光のコストが高かった頃のアメリカとドイツの太陽光コストを比較したところ、ハードコストは大差なく、ソフトコストと呼ばれる間接費や人件費が異なりました。アメリカでもソフトコストが高かったのです。これは日本でも同様だと考えています。ソフトコストをどこまで圧縮できるかが課題であり、企業努力によって利益を得ながら実現してほしいと思います。

日本の太陽光市場はだいぶ成熟しているため、業界を挙げてグローバルレベルの高品質・低コストを実現するのはチャレンジングな目標です。とはいえ、現在の63GWに安心せず、2倍、3倍と拡大するために取り組んでいただきたいと考えます。

また、蓄電池を含むデジタル化は、今後ますます重要なマーケットとなりますが、ここでも日本は世界に対して非常に遅れています。もちろん電力システム上の規制などもあり、企業努力だけでデジタル化を進めるのは難しい部分もあります。しかし、そこにこそ突破口があり、大きな方向性があることは明らかです。再エネ業界の民間企業のチャレンジを期待します。

FIT制度による設備導入量の累計


出典:資源エネルギー庁ウェブサイトより編集部作成

 

PROFILE

認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長

飯田哲也氏

自然エネルギー政策の革新と実践で国際的な第一人者。持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した非営利の環境エネルギー政策研究所所長。
Twitter:@iidatetsunari


取材・文:山下幸恵(office SOTO)

SOLAR JOURNAL vol.37(2021年春号)より転載

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