【提言】脱炭素社会に向けて日本が目指す方向性は?
2018/02/05
近年、世界で脱炭素社会への転換が本格化している。エネルギーの効率化と自然エネルギー拡大を主軸に進めることは、脱炭素だけでなく、経済、社会にもポジティブな効果を及ぼしていくことができる。日本も、脱炭素社会の実現に向けた、エネルギー政策への転換を行っていく必要がある。
エネルギー政策を転換
脱炭素社会の実現へ
公益財団法人 自然エネルギー財団は、提言「脱炭素社会を実現するエネルギー政策への転換を:『エネルギー基本計画』と『長期低排出発展戦略』の議論を誤らないために」を公表した。
この提言では、世界の脱炭素化の動きを紹介しつつ、日本でも脱炭素社会の実現に向けて、エネルギー政策に転換していくための方向性、考え方が示されている。提言の一部を紹介しよう。
脱炭素を達成するために
必要な 3 つの基本政策
基本政策1:2050 年までに電力を自然エネルギー100%へ
2017 年には、風力発電で 1.77 セント/kWh、太陽光発電で 1.79 セント/kWh という世界最安値が記録された。自然エネルギーは多くの国と地域で、他のどの電源よりも安価な電源になり、大量の導入が急速に進んでいる。日本でも安価な自然エネルギーを実現し、まず電力を自然エネルギー100%に転換することを目指すべきである。
・エネルギー基本計画に高いエネルギー導入目標を設定する
太陽光発電と風力発電は、「22%~24%」という、国の2030年目標を上回るテンポで導入が進んでいるため、現在の目標は、民間投資を継続的に拡大するための動機付けとしては弱いといえる。各国では 2030 年に 40%程度の導入目標をたてていて、日本でも国内外の投資を呼び込むためには大幅な目標の引き上げが必要だ。
・コスト低下を阻む人為的な障害の除去
日本の自然エネルギーコストを引き下げていくためには、系統接続を拒む既存電力会社が無制限・無保証の出力抑制を行えるような仕組みや、風力発電など、農地への立地を困難にする硬直的な規制など、人為的な障害を除去する必要がある。
・電力系統への接続拡大と電力システムの柔軟性の向上
日本では、太陽光、風力といった変動型の自然エネルギーは、まだ 4.8%しか導入されておらず、運用に技術的問題が生じるレベルではない。欧米の先進事例では、気象予測に基づく発電量予測、出力調整力の高い火力発電の柔軟な運用、広域運用、デマンドマネジメントの活用などにより、既に 20%から 40%程度の変動電源を系統に取り込んでいる。大量の変動電源を安定的に電力系統に取り込むことは全く可能であり、変動性を理由に、自然エネルギーが電力供給に占める役割を限定する議論は妥当ではない。
基本政策2:石炭火力発電を一刻も早くフェーズアウトさせる
世界が石炭火力発電からの撤退政策を打ち出している中で、日本では 43 基の新増設プロジェクトが進んでいる。大量の新増設は、温室効果ガス削減目標の達成を困難にするだけでなく、火力発電の設備利用率を下げ、ビジネスとしてのリスクを増大させている。石炭火力は、「最先端」の発電設備でも、通常の天然ガス火力より 2 倍以上の二酸化炭素を排出する。こうした石炭火力を国内外で拡大しようとする日本の政策は、世界の気候変動対策を損なうとともに、日本の国際的な評価を低下させ、日本企業のイメージ悪化をも招く政策と言わざるを得ない。
石炭火力からのフェーズアウトをエネルギーの基本政策に位置づけ、カーボンプライシングの早期 導入、新設火力発電の排出係数規制の導入などの方策をとるべきである。
基本政策3:エネルギーの効率化を第1のエネルギー源に
日本では省エネが高度に進んでおり、改善の余地が小さいという主張がされるが、1980、90 年代の日本のエネルギー生産性の伸びは鈍く、90 年代後半からは英・独に抜かれている。また、現行基本計画では、産業部門だけが2030年目標において排出増加が認められており、更に高い目標の設定が必要である。 建築分野では、エネルギー性能基準の義務化は緒に就いたばかりで、多くの住宅・建築物がカバーされておらず、既存の建築物の対策はほとんど進んでいない。新築・既存の双方で対策強化すべきである。運輸部門の対策も現行計画での言及が薄い。特に電気自動車については、世界の動きをとらえ、普及加速のための政策が必要である。
自然エネルギー財団では、今回の提言をはじめとして、脱炭素社会の実現に向けた建設的な議論が進むよう、様々な提言を行っていく予定だ。
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