新電力で県内のインキュベーションを目指す! 「ヴィジョナリーパワー」の事例(前編)
2019/06/24
これまで様々な新電力会社を見てきたが、今回はその中でも面白い成り立ちの地域新電力を紹介する。エネルギージャーナリストの北村和也氏が、地域電力の本質を解くコラム第7回(前編)。
おさらいも兼ねて
本コラムでこれまで紹介してきた地域の新電力は、地元資本100%のものばかりだ。これは地域への付加価値を最大限に高める意図があって行われるため、それぞれ個性が強く特徴がある。また、地域性が違うというだけでなく、成り立ちや目的も様々だ。
「やめエネルギー」は、地元の民間企業73社もの資本でできている。市の資本は入っていないが、民間サイドから地域の活性化に寄与したいと「子育て応援プラン」、「移住・定住応援プラン」などの地域サービスに近いユニークな料金プランを提供する。
岩手県の「久慈地域エネルギー」は、東北地方の市町村単位では唯一の自治体新電力である。横浜市と再エネの広域連携協定を結び、地域にある画期的な熱供給会社との連携も進めている。
「青森県民エナジー」は県内の生協と地域発電事業者の協力によって成り立っている。FIT電源の取り込みに熱心なだけではなく、青森県の再エネ関連の調査事業に積極的に参加し、すでに自治体新電力に関する有用な報告書も作りあげた。
そして今回は、山梨県の地域新電力「ヴィジョナリーパワー」を紹介しよう。
有力経営者が集まり、
起業支援を目指す新電力!
ヴィジョナリーパワーというカタカナ名称はあまり地域新電力らしくない。なぜなら地域名が入っていないからだ。名前をどうするか相談を受けた当初、「どこの新電力かわからない、英語の意味がわかりにくい」と私は文句をつけた。しかし、どうしても将来を見通すビジョン(=ヴィジョナリー)のコンセプトを入れたいと押し切られた経緯がある。
この地域新電力の特徴は、県内の有力な地元企業などのトップが個人として出資をしている点である。当初10人が名を連ね100万円ずつ出資金を出し合った。この形の新電力は間違いなく全国でもここだけだろう。出資者名を県外の人が見てもよくわからないが、地元山梨県民が見ると「知る人ぞ知る」ということらしい。このギャップがまさに地域新電力だ。
目的の設定も一味違う。もちろん「地域内の経済循環による地域活性化」という大上段のテーマは他の地域と同じだ。しかしヴィジョナリーパワーは「県内での新しい会社の起業(インキュベーション)に繋げたい」という思いが強い。これは地域新電力の生み出した利益を県内のベンチャー企業支援に使うという発想である。地元出資の新進企業がたくさん生まれることが、本当の地域の活性化に結び付く。ヴィジョナリーパワーはこれを『創業報県』と呼んでいる。
出資者は事業で成功したビジネスのプロだ。新電力での利益とビジネスノウハウを合わせて起業家を育てるのは合理的だろう。さらに配当は考えず、利益はベンチャー支援に回すと決めているそうだ。
民間新電力から
準自治体新電力に
ヴィジョナリーパワーは2018年に小売電気事業者登録を終えて電力の供給を開始した。営業対象は県内全域だ。実は山梨県は、県内に本社のある新電力や地域資本の新電力がヴィジョナリーパワーしか存在しない土地でもある。
ヴィジョナリーパワーには直接、自治体の資本は入っていない。しかし、設立後に山梨中央銀行が関与したファンド「やまなし新事業応援ファンド」からの出資を受けた。ファンドには、県や甲府市、富士吉田市の商工会議所などが出資する構造だ。間接的に自治体や金融を含む公共的な資金が入る地域新電力になっている。
この結果、ヴィジョナリーパワーの信用性が増すとともに、資金繰りも安定している。自治体などの資本参加に苦労する地域が多い中、ひとつの方向性を示している。
プロフィール
エネルギージャーナリスト
日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表
北村和也
エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ