政策・制度

地域マイクログリッドで自然災害から防衛 小田原市や北海道など12地域で構築へ

地域マイクログリッド事業は自然災害による地域の大規模停電時でも公共施設などの特定地域に電力供給できる再生エネ設備を導入する。同事業の特長は大手電力会社が所有・運用する既存の配電網を一時的に切り離して自立的に活用できること。小田原市や北海道などで実用化が進んでいる。

分散型エネルギーシステム
地域マイクログリッド

地域マイクログリッド(特定地域の電力融通網)は地域の再生可能エネルギーや大型蓄電池に加えて、配電系統線を活用して電力を面的に利用する分散型エネルギーシステムだ。大規模電源の調整力に頼っている需給調整を下位系統である配電網で一定程度賄うことで、災害などによる大規模停電時でも上位系統から切り離して電力供給可能な自立型の電力システムとしての活用を期待できる。

つまり平常時は、地域内または隣接する再生エネの電力を地域内で融通して消費するよう制御する。停電時には他地域の送配電網のつながりを遮断し、地域内の再生エネ発電所を中心に一定地域内で自立的に電力供給できるマイクログリッドに切り替える。地域内の住民は大災害が起きても平常時と変わらずに電力を使った生活を続けることができるようになる。

小田原市で国内初の
訓練を実施

経済産業省は地域マイクログリッド構築の支援事業を、2018年度からはじめて2022年度まで継続して実施している。累計支援額は100億円を超える。経産省資源エネルギー庁新エネルギーシステム課担当者は「当事業の成果目標は、2022年度まで12地域程度の先例モデル構築を目指している。2022年度事業で一区切りとなる」と説明する。

経産省補助事業の特徴は大手電力会社がすでに設備している既存配電網を活用できること。従来のマイクログリッド事業では、電力自営線敷を新たに整備していたので事業費用の負担となっていた。既存配電網を利用した地域分散型エネルギーシステムになるので事業費用を低減できる。事業共同体には必ず大手電力会社の送配電事業部門が協力している。

12地域の先例モデルには京セラや湘南電力がと組んだ小田原市や、エネルギーIoT企業ネクスシステムズや沖縄電力が構築している沖縄県宮古島市の地域マイクログリッドなどがある。小田原市は京セラなどと協力して、市内の自然公園に太陽光発電所や蓄電池などを導入した地域マイクログリッドを構築。小田原市は、京セラや東京電力パワーグリッドなどと共同で2022年5月30日に市内に構築した地域マイクログリッドの非常時発動訓練を実施した。実際に地域マイクログリッドを自立運用する非常時発動訓練は国内初となる。

今回の非常時発動訓練は大規模停電を想定。訓練ではまず東京電力パワーグリッドが送電系統網から配電網を切り離して、3施設を一時的に停電。守屋輝彦小田原市長が発動を指示して、市と京セラ、東京電力パワーグリッドの作業員が協力し、蓄電池から配電網へ電力を送る切り替え作業をした。給電が開始されると、特定施設に再び照明がついた。その後、マイクログリッドの自立運用を停止して平常時の状態に戻すための一連の動作を確認して、訓練を終えた。

北海道松前町内の消費電力
すべてを再生エネに

小田原市以外にも北海道松前町で地域マイクログリッド構築事業を順調に進めている。松前町事業の代表企業を務める東急不動産は新エネルギー財団主催の2021年度新エネルギー大賞で最高栄誉の経済産業大臣賞を受賞している。松前町の構築事業は、東急不動産が保有する4万800kWの風力発電所と併設した1万8000kW大型蓄電池を主要電源として、非常時に北海道電力ネットワークの配電網の活用により松前町全域の家庭にも電力を供給できるシステムの構築を進めている。将来は松前町で消費される電力が100%再生エネ由来とすることも視野に入れるという。

東京電力グループと関係が深い電気設備エンジニアリング大手の関電工は千葉県いすみ市で構築事業に取り組んでいる。さらに北海道釧路市も太陽光発電所、バイオマス発電設備や蓄電池などを導入している。


文:松崎茂雄

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