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蓄電池ビジネスを揺さぶる3大変革の全貌① ~需給調整市場の多面的見直し~

2026年春、日本の蓄電池市場の制度が一変した。小規模リソース参入の追い風と、取引ルールの厳格化やセキュリティ要件化といった逆風が同時に吹く中、事業者の戦略的判断が問われている。需給調整市場は、上限価格の引き下げと前日取引化により収益構造が大きく変化した 。蓄電池ビジネスは、高単価依存からの脱却と競争環境への適応が不可避となる。

 

<目次>
1.上限価格15円へ 今後も段階的引き下げ
2.取引は30分単位へ 調達は前日断面へ
3.一次・二次の募集量 削減により競争激化
4.低圧小規模リソースの市場参入が可能に
【全3回特集】蓄電池ビジネスについて3回に分けて解説します。
 
第1回:需給調整市場の多面的見直し
第2回:系統接続ルールの規律強化
第3回:JC-STAR要件化の広がり

 

上限価格15円へ
今後も段階的引き下げ

 


出典:電力需給調整力取引所が公開している取引実績を基に筆者作成。

 
今回の改定では、一次調整力および二次調整力を中心に[判読不明]当たりの上限価格が引き下げられた。特に、蓄電池の主戦場である一次調整力において、上限価格が従来の19.51円から15円/kW・30分へと引き下げられたインパクトは大きい。
2026年3月14日の前日取引移行と同時に、この水準が適用されている。さらに、この15円は固定的な水準ではなく、競争環境が十分に改善しない場合には、10円、さらには7.5円へと段階的引き下げも視野に入れた設計となっている。
いずれにせよ、上限価格付近での約定が常態化していることを考えると大きな転換であり、高い調整力単価を前提とした投資回収モデルは根本的な見直しを迫られている。
 

取引は30分単位へ
調達は前日断面へ

 


出典:電力需給調整力取引所が公開している取引実績を基に筆者作成。

 
取引ブロックは従来の3時間単位から「30分単位」へと細分化された。これにより、時間帯ごとの需給状況に応じた応札が可能となり、形式的には応札の自由度が高まる。
しかし、この変更の本質は単なる粒度の細分化にとどまらない。30分単位での約定・評価が行われることで、蓄電池の運用そのものがより短周期・高精度での制御を前提とする構造へと移行した点にある。SOC管理や充放電計画、価格予測の精度がこれまで以上に収益性を左右するようになる。
また、取引のタイミングも変更されている。需給調整市場における調整力の調達は、主要な調整力商品について、従来の「週間取引」から「前日取引」へと統一された。需給調整市場は一般送配電事業者が調整力を調達する市場であるが、事業者にとっては調整力を供出する収益機会でもある。このタイミングを、卸電力市場(JEPX)のスポット市場と同じ前日ベースにそろえた意味は大きい。
今回の見直しにより、一次調整力から三次調整力(複合商品)までが前日断面に統一されたことで、応札時点でより新しい需給見通しや卸電力市場(JEPX)の価格動向を反映できるようになった。一方で、スポット市場(前日10時)との関係では、まず卸電力市場に余力を供出し、その売れ残りが需給調整市場に回る構造になっていくとも指摘されている。
この結果、需給調整市場は「確実に収益を得る市場」から「他市場との比較の中で選択される市場」へと性格を変えていくことにもなる。「前日取引」化は収益機会の増加という側面を持つ一方で、卸市場との競争関係を通じて価格形成や約定機会の不確実性を高める要因ともなる。
 

一次・二次の募集量
削減により競争激化

 
一次調整力、二次調整力の募集量については、2026年度以降の見直しとして、従来の30相当から10相当へ削減する方針が示された。狙いは、これまで続いてきた応札不足の esee(是正)と、適正な競争環境の形成にある。一次・二次に限ってみても、市場で募集される量は2025年度比で縮小することは間違いない。
一方、一次調整力は応動時間10秒以内という厳格な要件を持ち、充放電制御に優れる蓄電池に適した市場である。現時点では火力の応札量がなお大きいものの、2026年度の想定応札量では、一次調整力において蓄電池の存在感が高まることが見込まれている。
このため、高速商品である一次・二次では、募集量の縮減と応札主体の多様化が同時に進み、従来よりも競争条件が厳しくなる可能性が高い。上限価格の引き下げと合わせてみれば、高単価を前提にした収益計画には見直し圧力が強まる。
従来は、調整力市場において高い単価での約定が継続し、蓄電池の初期投資を短期間で回収するビジネスモデルが成立していた。しかし、今後は限られた市場枠を追って、蓄電池同士が競争するフェーズに向かっていくことになるだろう。
 

低圧小規模リソースの
市場参入が可能に

 
ここまで見てきたように、需給調整市場は価格低下と競争激化という厳しい方向に変化している。一方で、新たな機会も同時に生まれている。低圧小規模リソースの市場参加と機器個別計測の導入である。
今春の制度改定により、低圧リソースの需給調整市場への参加が可能となった。ここでいう低圧リソースとは、一般家庭や小規模事業所などを含む、低圧系統に接続された蓄電池やEV充電器等の需要側リソースを指す。
ただし、低圧リソース単体では参加できない。需給調整市場の最低入札量は1MW以上とされており、アグリゲーターが多数の小規模リソースを束ね、合計出力を満たすことで初めて応札が可能となる。このため、低圧リソースの市場参入は、アグリゲーションを前提とした制度設計となっている。
技術的な中核となるのが「機器個別計測」と「群管理」である。個別計測では、従来の受電点単位ではなく、蓄電池やEV充電器といった機器単位で調整力(ΔkW)を評価する。これにより、需要全体の変動に埋もれていた小規模リソースの価値を直接市場に反映できるようになった。
また、群管理の導入により、多数の低圧リソースを一つの「リソース群」として扱い、単一の電源のように制御・応札することが可能となった。分散した需要家側設備を統合し、仮想的な発電所として機能させるアグリゲーション型の運用が制度として位置づけられた点が重要である。
この変化は、単なる参入範囲の拡大にとどまらない。系統用の大規模蓄電池が中心であった調整力ビジネスに対し、需要家側の分散リソースを束ねることで市場に参入するという、新たなビジネスモデルが制度的に解禁されたことを意味している。
 

【全3回特集】蓄電池ビジネスについて3回に分けて解説します。
 
第1回:需給調整市場の多面的見直し
第2回:系統接続ルールの規律強化
第3回:JC-STAR要件化の広がり

 

DATA

 
取材・文/廣町公則

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