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エネ基で“標的”になった太陽光発電と、原子力発電の本当の実力

2024年末に第7次エネルギー基本計画の素案が公表された。今回のコラムでは、素案に各所で示され再エネの“不便さの標的”となった太陽光発電を取り上げながら、原発の“本当の実力”について解説する。

気温上昇1.5℃越えの報道が相次ぐ2024年年末、注目の第7次エネルギー基本計画の素案が示された。この計画は、日本の2040年に向けての電源構成など決める重要な指針で、略して「エネ基」と呼ばれている。

エネ基の素案では、2040年の再エネを主力電源として割合を4~5割とする一方、原発をこれまでの「可能な限り低減」から「最大限活用」と一転させた。

<目次>
1.最大電源もあり得る2040年の太陽光発電だが……
2.太陽光発電、2040年に最大36.9円/kWhの衝撃
3.“不便さが増す”太陽光発電、“利便性の高い”原発は、本当か

 

最大電源もあり得る
2040年の太陽光発電だが……

表は、エネ基の素案で示された2040年の想定される電源構成である。
 
再エネ電源は4~5割で3~4割の火力発電を上回って最大電源となり、原子力発電は現在のエネ基(第6次エネルギー基本計画)と変わらない2割とした。

2040年度におけるエネルギー需給の見通し 出典:「エネルギー基本計画(原案)の概要:資源エネルギー」

問題点は、山ほどある。
 
何といっても、再エネの割合が低すぎるとの指摘があちこちから飛んできている。
 
現状のエネ基(2030年目標)で36~38%なので、ほぼ変わらないか、増えても10ポイント強では、国際的な評価にも、国内の需要にも耐えられないとの声である。
 
再エネでの最大は、太陽光発電で22~29%とされた。火力の内訳(天然ガス、石炭など)が示されていないが、全体の電源構成で、太陽光が最大電源となる可能性もある。これほど頼りにされているように見える太陽光発電であるが、エネ基の素案の中ではいくつもの“課題”が指摘されている。

太陽光発電、2040年に
最大36.9円/kWhの衝撃

最も驚かされたのが、2040年時点での1kWhあたりの発電コストの予測である。素案に付随した資料で示された。
 
たくさんの注釈が付いてややこしいのであるが、太陽光発電の数字は最大36.9円/kWhと強烈である。

2040年の試算の結果概要(統合コストの一部を効力た発電コスト) 出典:発電コスト検証ワーキンググループ *グラフの左部分だけ筆者が引用

それぞれの棒グラフの間を横切るグレーの帯で示されているのが、よく知られるLCOE(均等発電価格)で、太陽光が8.5円、原発が12.5円以上である。太陽光が原発を大きく下回り、意見はあるにしてもよく見る数字である。ところが、それぞれの縦3本の棒グラフでは、原発が16.4~18.9円以上に対し、太陽光が15.3~36.9円で、逆転するどころか2倍になってしまっている。

説明をすると、このコストは最近エネ庁が持ち出している「統合コスト」である。太陽光発電の割合が増えると、出力制御が起きるなど“問題”が発生し、火力発電への影響や蓄電池の導入などのコストが余計にかかるので、合算して「統合コスト」としている。3本の棒グラフの差は、変動再エネ(VRE:太陽光+風力発電)施設の容量の占める割合で、36.9円は容量の割合が6割の時(3本のうち一番右)である。

“不便さが増す”太陽光発電、
“利便性の高い”原発は、本当か

統合とは、筆者が度々このコラムでも使っている「柔軟性(flexibility)」とほぼ同じ意味で、欧米では再エネの導入を拡大するために必要な手段、ツールとされている。

通常、柔軟性の研究や適用は、どのような手段が現実的な技術で、コストを安くできるか見極めながら行う。しかし、素案では、再エネのコストが高いことの証明に使われている。また、詳しく述べないが、試算の前提条件がラフで“こういう計算もある”レベルのものでしかない。
コストも一つの指標として重要である。しかし、欧米など先進国のように、どう再エネ導入を増やすかという観点で、研究から実行に結び付けられるべきと考える。

素案では、この他、再エネ導入の課題として、「地域との共生」、「国民負担の抑制」。「使用済太陽光パネルへの対応」、解決策としての「事業規律の強化」など、特にメガソーラーなど太陽光発電を想定した文言が並んでいる。もちろん、これらの課題は、解決される必要がある。ただし、“目の敵”とまでは言わないが、再エネの不便さと、一方で原発の利便性を強調するのに使われている感は否めない。
 
素案での原発の評価は、驚くほど高い。「優れた安定供給性」、「他電源と遜色ないコスト水準」とあり、「一定出力で安定的に発電可能」などつらつらと挙げられる。さらに、「電力需要が飛躍的に増加」とエネ基で強調される「データセンターなどの需要ニーズに合致する」と、原発での需要増カバーという流れを明らかに後押ししている。

SMR(小型原発)と再生エネ電源とのコスト比較 出典:IEEFA

では、そんなに原発の利便性が高いかというと、現実はそんなに甘くない。

例えば、次世代炉として実証が行われているSMR(小型原発)では、上のグラフのようにとても再エネとの競争力は無い。アメリカでの減税制度(IRA、トランプ政権が廃止、または縮小を打ち出している)を使わないと、再エネとの差はさらに開き、2040年に太陽光発電の5倍以上、洋上風力でも2倍のコストとなる予測である。SMRは建設期間でも長期化が懸念されていて、昨年、アメリカの代表的なメーカーの一つが計画中止を発表した。

この他、新設コストが高いこと以外にも、バックエンド(廃棄物の最終処分場)が見つからないこと、建設期間が10~20年と長く時間がかかること、RE100では電力が使えないことなどに加え、何より、地震国日本での事故リスクは払しょくできない。
 
また、太陽光が不便だと名指しされた、統合コスト(柔軟性に関わるコスト)でも実は、原発は大きなハンデを追っている。
 
原発は、ある意味で柔軟性が圧倒的に欠如しているのである。

もともと日本で、“原発まっしぐら”だった時期を振り返ると、スタートストップに手間と時間がかかり、13カ月に1回長期の点検を行い、大きな事故の時に全基が止まる可能性をはらむ原発を、電力システムに「統合」するために、多くの措置が取られてきた。夜大量に余る電源の処理のために、揚水発電が数多く(世界有数)作られ、止まるリスクを火力発電所の建設でカバーした(福島事故では活躍したが)。これらは、素案でいう統合コストに近いものである。

もう一つ外せない議論が、原発にはできない再エネの地域への貢献である。

原発と違って、太陽光を中心とした再エネ発電は、地域での経済循環による地元の活性化や非常時の電源として利用が可能である。地域に寄り添えるのは、どちらか考えてもらいたい。

今後、再エネ電源はさらに大量に必要となる。直接的な脱炭素電源としてだけでなく、水の電気分解によってグリーン水素やグリーンアンモニアなどの脱炭素ツールを作り、製鉄の水素還元利用や肥料の原料などに役立てるためである。

こねくり回したロジックで原発に回帰するのではなく、我々はまっとうで分かりやすい太陽光など再エネ電源をどう増やすかにまい進すべきである。

プロフィール

エネルギージャーナリスト
日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表
埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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