編集部からのお知らせ

全世帯の6割が利用!デンマークの地域熱供給が凄い!

再生可能エネルギーを活用した地域熱供給システムへの関心が高まっている。日本で再生可能エネルギーというと発電に目が行きがちだが、欧州の国々では熱利用についても国を挙げて取り組んできた。そんな欧州にあって最も熱利用の進んでいる国の1つが、デンマークだ。

つくった熱を地域で使う
温水を熱導管で各戸に供給

 地域熱供給のイメージ 出典:State of Green

2016年12月、デンマーク王国大使館と環境エネルギー政策研究所(ISEP)が、同国の「第4世代地域熱供給」をテーマに都内ホールでセミナーを開催した。

デンマークの地域熱供給システムは、既に第4世代に突入しているという。しかし、そもそも地域熱供給とは何なのか。一般に地域熱供給とは、1ヶ所でまとめて製造した熱(温水など)を、熱導管を通して地域内の商業施設や住宅などに供給するシステムを指す。その主たる目的は、冷暖房と給湯だ。そこには、それぞれの建物が個別に冷暖房・給湯を行う場合に比べ、省エネルギーやCO2削減など様々なメリットが認められる。

デンマークは、この地域熱供給において100年以上の歴史をもつ。その第一歩は、1903年に作られた熱電併給プラントにまで遡る。これは廃棄物焼却施設であり、廃棄物を燃やす際に出る熱を近くの病院に供給することからスタートした。1979年には熱供給法が制定され、今日まで続く公共熱供給計画の礎が築かれた。現在では、デンマーク全土の熱需要全体の約50%、家庭用需要の約63%が地域熱供給によってカバーされている。

再エネを活かせる第4世代
効率的エネルギー利用を実現

それでは、地域熱供給における第4世代とは何か。一言でいえば、50~70℃の低温水まで利用できる地域熱供給システムのことだ。第1世代では高温の蒸気しか利用できなかったが、第2世代では高温水(100℃程度)、第3世代では中温水(80~90℃程度)と、新しい世代になるほど利用できる温度が低くなってきた。

地域熱供給における各世代の特徴  出典:ISEP

低い温度まで活かせるということは、無駄になる熱が減るということであり、エネルギー効率の向上に直結する。そして、低温水を利用できる第4世代地域熱供給にまでなると、太陽熱をそのまま取り込むことも容易になる。つまり、再生可能エネルギーをローコストで活用できるシステムであるわけだ。これこそ、いま第4世代地域熱供給に期待が高まる理由でもある。

第4世代地域熱供給の熱源は、きわめて多様だ。基本的にすべての熱源に対応可能であり、太陽光や風力など変動するエネルギーや、工場の排熱なども利用できる。通常では捨てられてしまうことの多い工場の余剰温熱や冷熱も、地域熱供給にとっては重要な熱源となる。

さらに素晴らしいことに、地域熱供給は「電気」と「熱」という2つのエネルギーシステムの統合を可能にする。例えば、電気ボイラーと大規模な工業ヒートポンプを地域熱供給の熱生産に導入すれば、熱供給システムは大規模なエネルギー貯蔵の役割を果たす。また、風力発電や太陽光発電により一時的に余剰電力が生まれた場合には、その電力を熱生産に回すことで系統安定化や蓄電にも貢献する。

スマート化で省エネを推進
日本にも導入が期待される

同セミナーで講演を行ったISEPの飯田哲也所長は、第4世代地域熱供給の特徴として、上記を加え「熱・電双方向のスマート化」を挙げる。ここでいう「スマート化」とは、電力市場を介した熱電需給の連動システムや、温水タンクによる蓄熱などのこと。どれも日本では、まだほとんど手が付けられていないものだ。さらにデンマークでは、いま日本の電力分野で導入が進む「スマートメーター」を、地域熱供給においても導入する動きが盛んになっているという。

セミナーの様子(ISEP飯田哲也所長)

スマートメーターを活用した地域熱供給については、デンマークの熱計測ソリューション企業Kamstrup(カムストロプ)からの報告があった。2012年、デンマーク第2の都市オーフスにおいて5,600ヶ所の熱量計をスマートメーターに交換したところ、一日に約100㎥もの温水の節約=省エネにつながったとのこと。スマートメーターの導入により遠隔検針が可能になるとともに、取得できるデータ量がアップして、まったく新しいレベルの分析や改善、故障点検を実現できたことが大きかったという。

日本に地域熱供給システムは、まだほとんど普及していない。そもそも、熱を地域全体で利用しようという仕組みが定着してこなかった。2012年にFIT(固定価格買取制度)がスタートし、再生可能エネルギーの導入拡大が図られたが、その対象は発電だけに限られていた。再生可能エネルギーをより効率的に活かしていくためには、熱利用も不可欠だ。第4世代地域熱供給は、再エネ熱利用における現時点での完成形といって良い。暖房の必要性が高い場所はもちろん、工業地帯や人口密集地域など、日本においても多くの場所で実現可能だ。導入事例の報告が待たれる。


取材・文/廣町公則

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