編集部からのお知らせ

「安い日本」と脱炭素、日本経済の現状を再エネの視点から見る

じわじわと、しかし確実に日本の価値が落ちている。この現象を総称して「安い日本」と呼び、日本の経済がすでに世界の中で一流ではないことを表す。その実態の一部とエネルギーに及ぼす影響を考える、エネルギージャーナリスト・北村和也氏による連載コラム第30回。

日本はいつから
「安く」なったのか

最近、新聞や特に経済系の雑誌で、「安い日本」が取り上げられることが急増している。日本経済新聞は、今年の6月に「安いニッポン ガラパゴスの転機」というシリーズをスタートした。その第一回では、Netflixの料金値上げと発売されたiPhoneの値段を日米平均月収に対する割合で比較して見せた。Netflixの料金は世界的にほぼ均一で、給料の安い日本人の負担感が相対的に重くなると分析した。iPhoneは上位モデルの価格は日本の平均月収の45%にもなり、アメリカでの25%をはるかに上回ることを数字で見せた。

その後のシリーズでは、円安によってカニが買えなくなってきたこと、海外からの日本旅行の決め手が日本のモノやサービスが安いこと、などを取り上げた。東京の高級ホテルの一泊の料金7~8万円は海外と比較すれば、リーズナブルだというのである。

また、日本のアニメーターが賃金の高い中国へ流れている衝撃の実態もルポしている。政府の人手不足を外国人労働者でカバーするという政策の根幹となる日本の高賃金は、すでに幻想となっている。
 
日本が安くなったのは、この2、3年のことではない。データは冷徹である。読者もご存じのように、日本はこの30年間ほぼ成長をしていない。2020年に日本の平均賃金はOECD加盟35ヶ国中22位で、韓国を下回っている。相対的貧困率はG7の中でビリから二番目、一人親家庭の貧困率は先進国の中で群を抜いて高い。日本はとっくの昔に貧しくなっている。

円安の罠(わな)

安い賃金がさらに下がっていること、潜在成長率が低いこと、など残念な数字は山ほどある。中でも、円安に対する勘違いは、日本をさらに安くする要因となっている。
 
長い間、円安は輸出大国である日本にとって良いことだと我々の意識に植え付けられ続けてきた。円高になると株が下がり、円安では逆に上がるのが当たり前になっていた。かつてそれが実体経済を反映していたこともあったが、そんな時代は終わっている。

すでに日本は輸出大国でなく、貿易で立国していないのだ。貿易がGDPに占める割合は2割程度しかなく、5割以上ある本当の輸出大国ドイツをはるかに下回っている。円高を忌み嫌う政策は、一部の巨大自動車メーカーなどのためだけに行われてきたといっても過言ではない。巨大企業は政策に後押しされて巨額の利益を出す一方、長い間、法人税を一切払わず、国民へのメリットをもたらさなかった。さらに、下請け企業に対して毎年決まった割合のコストカットを強制し、まさにトリクルダウン抜きの利益の独り占めが続いていた。

そうこうするうちに、かなりの製造工場は海外に移ってしまい、「円高=悪」の意識だけが無駄に定着したのだろう。現在、急激な円安が進行しているが、報道されるのは物価が上がるという悪影響のことばかりで、円高のメリットはほとんど聞かない。それどころか不況下のインフレであるスタグフレーションのリスクさえ囁かれている。

日本は各種の原料や食料の多くを輸入しているから、円安はマイナス要素が大きいのは当たり前である。円安に関する日本の態度と招いた結果は、まさに安い日本の象徴と言える。

「安い日本」が追い打ちをかける
ガソリン高騰

エネルギーの話に入る。

日本は海外諸国に比べて、エネルギーの自給率が非常に低いことはご承知のとおりである。つまり、多くのエネルギーは輸入に頼らざるを得ない。今、欧州などで高騰が問題となっている天然ガスもその代表である。

ガソリンは、7年ぶりの高騰で家計直撃、とお決まりのフレーズでニュースが取り上げている。もちろん、原油や天然ガスの市場価格が上がっているのは事実である。基本的には、世界中で同じ条件にある。しかし、日本固有の問題はこれに円安が加わっていることである。現在のような円安に振れていなければ、ガソリンはここまで高くなっていないのだ。

ここ5年で見ても、円の価値は10%程度も下がっている。同じ円で9割程度のものしか買えない、もしくは、海外の同じものが1割近く高くなったのである。さらに今回の円安は、国際通貨の中でほぼ円だけが安くなる「円独歩安」だ。日本だけが高騰による被害の度合いが高いことになる。

賃金が上がらず、購買力が衰え、経済の先行きは不透明という長く続くある意味の“日本病”といえよう。背景には経済政策、各種政策の貧困さがある。一部の輸出産業を守るために円安政策が取られ続けたこと、年金など不安が解消されず国民は貯蓄に頼るしかないこと、企業が利益を従業員に正当に配分してこなかったことなどなど。かくして世界に取り残され、安い日本が出来上がったのだ。

12>

関連記事

2021/06/24 | 編集部からのお知らせ

改正温対法が求める「地域主導の脱炭素」

太陽光関連メーカー一覧

アクセスランキング

  1. 東京都の2024年度予算案 次世代太陽電池やアグリゲーションビジネスを支援...
  2. 【 参加受付中!】2024年4月23日(火)「第29回PVビジネスセミナー」~ 市場動向/PPA・蓄電池の最適化モデル ~...
  3. 新・出力制御対策パッケージ。「蓄電池の活用」を強化へ
  4. 太陽光発電所 銅線ケーブルの盗難被害が相次ぐ 銅の価格上昇が背景に
  5. 2024年度の脱炭素ビジネス【発電側課金・脱炭素オークション・非化石価値取引】...
  6. 太陽光発電所の盗難被害が急増 外国人グループの犯行か
  7. グリッドコードとは? 太陽光発電事業者も知っておくべき系統運用の新ルール...
  8. 経産省、GX推進で新たな国債発行 系統用蓄電池や次世代太陽電池に重点配分...
  9. パワーエックス 2024年半ばから水冷蓄電池モジュールの量産化へ
  10. 脱原発完遂のドイツの電源構成、どうなるエネルギー費の再高騰リスク?
太陽光業界最新ニュース

フリーマガジン

「SOLAR JOURNAL」

vol.48 | ¥0
2024/01/31発行

お詫びと訂正

ソーラー電話帳 SOLAR JOURNAL メディアパートナーズ