電気代は本当に安ければいいのか? ~裏に潜む経済の疲弊と弊害~(後編)
2019/07/26
電力の小売り完全自由化は本当に地域にメリットをもたらすのだろうか。地域電力の今後を考えるために必要な視点とは。エネルギージャーナリストの北村和也氏が、地域電力の本質を解くコラム第8回(後編)。
引き起こされる
地域へのデメリット
ESP方式の結果、確かに電気料金は削減される。一番最近の実績として、話をしているある県のある市(以下、「A市」)では、結果として対象となった公共施設で2割の電気代削減ができるという。しかし、電気は、エリア(旧一般電気事業者の地域)を超えた別の旧一般電気事業者が供給することになった。
よく考えて欲しい。これまで、このA市では、エリアの旧一般電気事業者(A市とは別の県)へと確かにエネルギー費が流出していた。細かくいえば、電力の小売りによって生まれる付加価値分が流出していたことになる。さて、交渉代理人を使うことで、今回大幅な値引きが成立したのは間違いない。一方で、エネルギー費の流出という観点から見ると、エリア内の旧一般電気事業者の替わりにエリア外の事業者が付加価値を持ち去っているだけで、エネルギー費流出は大筋でそのままである。
ところが、これまで電気を供給していたエリア内の旧一般電気事業者は、A市の中に大きな事業所を持ち、多くの雇用も抱えている。結果として、根こそぎとまでは言わないが、これまで地元にとどまっていた付加価値分まで外に流れることになり、実質的な流出分は明らかに拡大している。
また、交渉代理人に支払う手数料も成功報酬的に削減分の一定割合とかなりの額となる。こちらも地域からの明らかな流出費とカウントされる。
自治体は、楽な『交渉代理人制度』におぶさって、リスクなく値下げを勝ち取ったつもりかもしれない。しかし、実際は地元からのエネルギー費の流出が拡大した可能性さえある。
あえて問いたい。そのやり方は、本当に地域のためになっていますか、と。
正しい知識にもとづく
具体的な行動が重要
私は、電力の自由化が間違っているとは決して思わない。もちろん前進である。これまでの地域独占とは別の選択肢が明らかに得られるからである。ただし、そのメリットを活用するためには、地域にツールが必要である。そして、地域の新電力や自治体新電力がその役割を担う可能性があると考える。
もう一つ重要なことがある。このコラムで示したような一連の疑問を多くの人々に感じてもらうことである。知ることが無ければ、行動には結びつかない。知識の不足が良き方向への道を妨げている可能性がある。
今年に入って、RE100やSDGsを含め、地域新電力を使った地域の活性化について話してもらいたいというお願いが増えている。お話をする前とした後では、圧倒的に聞き手の顔が変わり、考えが動いたことがわかる。宣伝をしたいわけではないが、より多くのお話をする機会があればと思う。たくさんの人に今動いていること、本当に地域の活性化のために何ができるのか考えて欲しいからである。
“自由化”の疲弊は
どこまで進んでいくのか
最後に一つ。
弱いと言われる新興の地域新電力や自治体新電力だけが、電気料金の値下げ合戦で苦しんでいるわけではない。実際に、巨大な存在と思われている旧一般電気事業者も同様に身を切っている。値下げ競争とはそういうものである。今は、無理をして目の前の戦いに勝つためと頑張っているが、全部の料金を下げることができるわけではない。そして、その無理がボディーブローのように効いてきていることは想像に難くない。いずれ、設備の保守や電力供給サービスに影響を与える可能性も決して否定できない。
誰もが得をしないWIN-WINの逆パターンをいつまで続けるのか。広く国のエネルギー政策と経済の視点、そして、同時に地域振興の視点から、どのようなエネルギーを誰がどうやって作り、届け、管理するのか、すべてのステークホルダーを交えて議論をしなければならないと感じる。
プロフィール
エネルギージャーナリスト
日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表
北村和也
エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ