脱炭素に足踏みするドイツの苦悩 part3 ~ウクライナ危機の影響〜
2022/03/25
ロシア軍がウクライナに侵攻した。それは、天然ガスの過半をロシアからのパイプラインに頼っているドイツに大きな衝撃を与えた。ウクライナ危機がエネルギー分野に与えた影響をドイツの観点から考察する、エネルギージャーナリスト・北村和也氏の連載コラム第35回。
前々回記事:『CO2排出量が増加? 脱炭素に足踏みするドイツの苦悩 part1』はコチラ
前回記事:『脱炭素に足踏みするドイツの苦悩 part2』はコチラ
ある程度想定されてはいたが、2月下旬にプーチンの命令でロシア軍が実際にウクライナに侵攻した。脱炭素の急展開と残る化石燃料頼りのアンバランスなどから昨年から起きていたエネルギー高騰に、また、新たな不安定要因が加わることになった。中でも、天然ガスの過半をロシアからのパイプラインに頼っているドイツが受けた衝撃は大きなものであった。今回のコラムでは、ウクライナ危機がエネルギーに与えた影響をドイツの観点からひも解いてみたい。
ロシアにエネルギーを
頼ったドイツの失敗
IEAのまとめによると、EU27ヶ国とイギリスでのロシアからの天然ガスの割合は、2021年で32%と全体のほぼ3分の1に及ぶ。一方、欧州域内からのものは2割に満たない。20年前の2001年には、域内が5割を超えていてロシアの26%を大きく上回っていた。ロシアへの依存度はこの20年間で着実に増している。
ドイツが取ってきた行動を振り返ると、今になってみると“失敗”のそしりを免れない。
(欧州各国の「ノルドストリーム」天然ガスへの依存度 出典:Bruegel on ENTSO-G)
上の地図は、ロシアからのパイプライン「ノルドストリーム」による天然ガスに、ヨーロッパの国々がどの程度頼っているかを示している。今回のロシアへの経済制裁で、運用が凍結されているのは「ノルドストリーム2」で前記のパイプラインは稼働を続けている。
色が濃いほど依存度は高く、ドイツは需要のおよそ55%を頼っている。そのため、今回のウクライナ侵攻に対する経済制裁がらみでもドイツ政府の混乱ぶりは半端ではなかった。かろうじて欧米などとの足並みをそろえ、ノルドストリーム2の運用停止には踏み切ったが、この依存度では全面輸入禁止などは不可能であった。政府も「停電が起きる」と音を上げた。
なぜロシアに
依存してきたのか
ソ連の崩壊以降旧東西の融和が進み、特にドイツの再統一が叶ったドイツにとって、ロシアは必ずしも敵対する相手ではなかった。一方的に失策のレッテルを貼るのは酷かもしれない。しかし、再エネに大きくシフトしてきたドイツの根本的な方針に反する動きがそこにあったことは否定できない。
ドイツは2000年から、いわゆるドイツ版のFIT制度であるEEG(再生可能エネルギー法)をスタートさせている。その成果は、短期間で電力の半分を再エネ化するという偉業を成し遂げ、再エネ先進国としてのドイツの名声を高めた。
その際、再エネ拡大の3つの目的として、脱原発の実現、再エネ産業による経済発展、エネルギー安全保障の確保が挙げられていた。エネルギー安全保障の重要な要素は、ロシアに頼らないエネルギーの確保であったことを忘れてはならない。
最初の2つは、ある程度実現しているが、ロシアからのエネルギー自立は逆行してしまった。当時の政府は、現在と少し似た構成で、シュレーダー元首相を出したSPD(社会民主党)と緑の党が参加した連立政権であった。再エネ拡大もこの政権が強力に進めた。
ところが、シュレーダー元首相は、2005年に最初の天然ガスパイプラインの合意を取り付け、ロシア寄りの路線に走る。政界引退後はこのパイプライン運営会社の役員になり、また後を受けたメルケル首相も流れを引き継いできた。
かくして、ロシアからの天然ガスパイプラインは2本目までが完成し、運用開始直前にまで迫っていたのである。
現ショルツ政権は大慌てで対策をまとめている。2027年のロシア依存からの脱却を目指し、まず国内にLNG基地を2基建設すると発表した。ロシアからのパイプラインに頼り切っていたドイツは、他の欧州諸国がほぼ保有するLNG基地をこれまで1つも持っていなかった。
さらに、年末に予定されていた脱原発の見直しさえ俎上に載せる動きも起きる。