耕作放棄地を再生! “地域で取り組む”ソーラーシェアリング事例
2019/05/21
エネルギーから
経済を考える視点の重要性
一方で、「農業の持続可能性」を考えたとき、農業の6次産業化だけではなかなか持続性を担保できない課題にも直面した。そこで注目されたのが「再生可能エネルギーと農業を組み合わせる」という手法だ。
東日本大震災以前から「再生可能エネルギーを地域づくりに活用する」という視点は一部の農家の方にはあった。しかし、震災を契機にその取り組みが甘かったと実感した農家は多い。
例えば、小田原箱根商工会議所会頭を務める鈴木悌介氏が創設した「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議(以降、エネ経会議と称する)」も、こうした課題が強く意識されている。
震災を契機に中小企業の経営者がエネルギーを勉強することの重要性が高まってきた。エネ経会議は地域という現場でエネルギーを賢く使うこと(省エネ)、創ることを標榜する実践的な組織だ。
ソーラーシェアリングは「今後の再生可能エネルギーをどう普及促進していくか?」を考える上でも作りこむべきテーマであり、会員企業に共有すべき内容であるのもまた事実なのだ。
考えてみれば農業もまた経営であり、ややもすれば、農業分野に経営という概念が浸透しなかったからこそ、現在のような農業の危機的な状況が生まれたのではないだろうか。
農業の持続可能性を如何に担保するかは、農業経営の真髄ともいえるだろう。その一つとしてソーラーシェアリングがあるのだ。
小田原かなごて
ソーラーシェアリング
ソーラーシェアリングは、農地の上に最低高さ2メートル以上をつけて発電設備を設ける仕組みだ。
「日陰にして農作物が育つのか?」という疑問を持たれる方は多いが、実際に取り組んでみると、その心配は不要だということがわかる。
例えば、米は日陰では育たないと言われたが、今年は特に日差しが強すぎたこともあり、近隣の農家が驚くほど生育が良いという結果となった。つまり、ソーラーシェアリングは生育に必要な光の量を確保した中で太陽光発電装置をつけるので、農作物からも収入が得られ、太陽光発電からも収入が得られるというダブルインカムが図れるのである。
また、ソーラーシェアリングは発電効率が良いことも実際に取り組んで判明した。実際に計測してみると、売電収入が計画値の1.5倍にのぼった。これは通常の野立ての太陽光発電では考えられない数字であり、業界からもパネルメーカーからも大変に驚かれた。
ソーラーシェアリングは、地上から2メートル以上という農水省の通達で離さなければならない。そのため夏の暑いときに地面が温められて発生する輻射熱で、太陽光パネルが温められることがないため、発電効率が下がらないのだ。
さらに、通常は360坪の土地を借りるときには年間の賃料もかかるため、それなりの金額を覚悟しなければならない。しかし、小田原かなごてソーラーシェアリングは年間家賃が2万円。それさえも農家からは不要だと言われている。
小田原かなごてソーラーシェアリングは出発が耕作放棄地問題だったため、当該土地も耕作放棄地化していた。近隣からは「ひえが出るから草刈をしてくれ」といわれる状況だった場所を、ソーラーシェアリングにしたのだ。当然、私達が草むしりや管理を行うので農家側にとってはメリットしかない。そのため「賃料なんて申し訳ない」といった声が多く聞かれる。
ソーラーシェアリングは支柱部分の面積の総和分について農地の一部転用手続きが必要であり、その申請は事業を営む農業委員会に申請をすることとなる。しかし、実質的に権限を持つのは都道府県の農政を担当する事務員だ。申請者は実質的な権限者とは直接やり取りができない。ここが非常に面倒だ。
また、神奈川県は「農地は農地として活用すべきである」という考えが当初は強く、このソーラーシェアリングを認めようとしなかった。2年前に設置したソーラーシェアリングが、千葉県や静岡県では100件を超えていた時代に、わずかに6例目であったことからもご理解はいただけるだろう。
そして、1年半後に申請した神奈川県初となる「米作りによるソーラーシェアリング」は県下21例目。この1年半で3.7倍になった。そして県のスマートエネルギー計画で「2020年までにソーラーシェアリングを100件にする」という明確な目標値を掲げるまでに変化を遂げたのだ。
驚くほどの変化ではあるが、千葉県の300件超、静岡県の150件超に比べて2018年12月で26件とまだまだ導入事例は少ない。
ソーラーシェアリングは手続きとして事業を行う農業委員会の審査に諮ることが条件になるのだが、農業委員の中でもさまざまな意見が出てくる。ある農業委員からは、私どもがあげた申請に対して「豊かな田園風景地帯にこのような工作物を立てることを安易に認めていいのか?」と反対意見を出されたこともあった。
しかし、それを救ってくれたのもまた農業委員だ。当初は緊張関係があった農業委員会事務局だった。
農業委員は各地域から選出されるのが通例だ。私どもの事業地の農業委員が手を上げ、「安易にとおっしゃるが、ここは3年間耕作放棄地で、境界を接する農家は大変苦労していた。どんな形であれ耕作放棄地が耕作地になることを地元としては歓迎したい」。この発言があったからこそ、農業委員会の議決が経られたのだと筆者は理解している。
ソーラーシェアリングは現在全国で2,000件弱だが、いまだ農業に携わる人間の間でも懐疑的な意見が多く、誤解や懸念の払拭が課題だろう。