電力ビジネスだけではない!? 地域課題を解決する連携の輪(後編)
2019/09/06
協議会の目的は、エネルギー事業の成功ではない。各種の課題を解決し、地域を活性化させることである。中でも忘れてはならないステークホルダーが、第一次産業だ。ここでは、協議会に特徴的なリンク相手として、漁業や農業との連携を取り上げる。エネルギージャーナリストの北村和也氏が、地域電力の本質を解くコラム第9回(後編)。
地元の広い
ステークホルダーとの協力体制
協議会の目的は、エネルギー事業の成功ではない。各種の課題を解決し、地域を活性化させることである。エネルギー事業や事業者は、活性化のためのツールなのである。その中にエネルギーの課題もあるし、前述の地域サービスも同様に活性化のため解決すべき課題の1つである。
確かに資金循環の観点から見るとエネルギーは大きなテーマであり、協議会の名前の中にはエネルギーの文字が入っている。
当然だが、地元を構成するのは自治体やエネルギーの事業者だけではない。例えば、外国人労働者を多く抱える地元の工場や、広く考えれば、商工会議所のように民間の事業者を支える団体も地元の重要な構成メンバーとなる。地元で新たな価値を生み出す様々なビジネスがあって初めて、地域は経済的に回っていく。
中でも忘れてはならないステークホルダーが、第一次産業である。農業、林業、水産業という地域の資源を使う存在は、今後のエネルギーの在り方と多くの共通点を持っている。
ここでは、協議会に特徴的なリンク相手として、漁業や農業との連携を取り上げてみたい。
漁業と農業と
エネルギーの密な関係
漁業とエネルギーとを並べて何を思い浮かべるだろうか。
風力発電に携わる人ならピンとくるものがあるかも知れない。現在、できたばかりの促進法のもと実現に向かって動き始めた大規模な洋上風力発電がそれである。
洋上風力は、四方を海で囲まれた日本において、今後大きな可能性を秘めた再生エネ発電になる。技術、コストの問題と並んでクリアしなければならないポイントは、「漁業権」の問題である。漁業への悪影響を恐れる漁師たちとの交渉は多くがハードで、先達ともなった福島沖の洋上風力プロジェクトでも地元の漁協との交渉は実に激しかったと聞く。
繰り返すが、地域活性エネルギーリンク協議会の目的は、単なるエネルギー事業の成功ではない。地域の活性化に結び付くポジティブなプロジェクトの成立である。
現在、洋上風力の適地といわれるある県での発電施設建設プロジェクトで、地域の新電力や地元の大学など協議会のメンバーがある提案を進めている。これまでの大型風力発電事業で、ほとんどスルーされていた地元の漁業関係者を含む地元のステークホルダーに、利益の還元をもたらすための提案である。漁業関係とのパイプ役からすでに前向きな意見を返していただいている。
農業との連携も始まろうとしている。
協議会のメンバーには地元農家で作る地域発電事業者もすでにいるが、先日、関東のある都市から新たな提案が協議会に舞い込んできた。スーパーマーケットの生ごみを堆肥化し、自然農法で農業を行うことを進める農業組合法人からのものである。
この法人は、食品リサイクル法への対応を事業化して、例えば、廃食用油による発電を行い、次いで生ごみのメタン発酵によるエネルギー事業にも手を付け始めている。
コンセプトは、協議会と重なる。廃棄物を含む地域の資源を地元で利用し、農業をベースにした事業で地域を元気にすることである。生産した食材は地元のレストランで利用することも目指す。協議会の趣旨を聞きつけて、ぜひ連携したいと猛暑の中、協議会の事務局まで駆けつけてくれた。
学術機関との先進的なリンク
最後に、協議会の学術メンバーとのリンクに少しだけ触れておく。
地域活性エネルギーリンク協議会の隠れた特徴は、学術機関との実践的なコラボだと考えている。学術メンバーは大学丸ごとではなく、それぞれに目的を特化させた研究組織が中心となっている。前述した洋上風力プロジェクトの漁業との連携は、協議会の学術会員による仕掛けでもある。
また、千葉大学予防医学センター 健康都市・空間デザインラボというユニークな会員も存在する。「人々の健康と、建築や都市の相互関係を明らかにし、すこやかな空間の計画・設計論を検討する」という基本コンセプトで、まちづくりを健康の観点から研究する。
ある基礎研究では、歩道が少ない地域に住む高齢者の閉じこもりが、歩道が多い地域に住む高齢者の閉じこもりの1.48倍であり、歩きにくい地域では高齢者の外出行動や健康に好ましくない影響がある可能性がわかったという。地域の課題の中で、健康は最重要の1つである。
さらに、まだ学術メンバーではないが、ある国立大学と大手メーカーで作る研究組織とのコラボも進む。協議会に所属する地域新電力と一緒に行う共同研究である。地域経済循環に与える地域新電力の効果を数値化しようという画期的なものになる。
地域活性エネルギーリンク協議会は、まだ参加40団体にも満たない小さい組織である。しかし、その中身は、他の類似団体とは差別化ができていると感じる。
厳しいといわれる新電力事業で考えてみる。新電力の料金メニューの工夫や安い調達先だけで大手の小売り電気事業者と伍して戦うことを目指すのではなく、地域のステークホルダーと一体となって、地域を活性化することを目指す。
エネルギーは手段であり、目的ではないと繰り返し書いておきたい。
プロフィール
エネルギージャーナリスト
日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表
北村和也
エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ