編集部からのお知らせ

自治体が脱炭素で悩む、市民の意識向上と実践の難しさ

地元や市民に対するカーボンニュートラルの旗振り役は一義的に自治体であるが、住民の脱炭素意識が思うように上がらないことが悩みとして浮かび上がってきた。今回のコラムでは、実現の重要なカギである市民の脱炭素について取り上げたい。

政府も力を入れる
民生部門の脱炭素

 COP28が終わり、各国のカーボンニュートラルの実際の取り組みに期待が寄せられる。日本は特に化石燃料の使用継続で欧米から厳しい目を向けられ、再エネについても拡大の道筋が描き切れないでいる。温暖化防止の観点から見て脱炭素は100%実現されなくてはならず、そのためには、政府や企業だけではなく、足元となる地域や家庭などでの取り組みが必須である。

 カーボンニュートラルに聖域は無く、政府の掲げる2030年に向けての中間目標では特に民生部門のCO2排出量の削減が重要課題とされている。

温室効果ガス排出量の内訳と2030年度削減目標 出典:環境省、脱炭素地域づくり支援サイト

 上の表のように、民生部門(赤枠)とは、一般の家庭と事務所などの業務で構成され、目標46%削減の基準となる2013年時点の排出量を見ると、全体の3分の1近くにもなる。家庭だけでも15%程度と一定の割合になる。実は、産業や運輸の脱炭素はある程度進んでいるが、民生部門の減り方が今一つとなっている。削減率の目標も業務(-51%)、家庭(-66%)と高く、中間目標達成のカギを握る。
 そのため、政府から都道府県、その先の市町村へと要請が流れ、地方自治体の担当者へのプレッシャーも強さを増している。

脱炭素マッチングイベントで見た
自治体の“悩み”

 環境省は、2年ほど前から地域脱炭素実現のツールの一つとして、市町村などの自治体と脱炭素の技術やノウハウなどを有する民間企業とのマッチングイベントを複数回開催している。
 2023年8月末に東京で行われたイベントには、全国の30の市町村が参加し、呼応する民間企業などは倍の60を数えた。
 自治体は企業に求める支援のプレゼンを行うが、どの自治体も掲げる太陽光や風力発電などの導入サポート以外に、ある課題の解決策への手伝いが散見されるのに気づいた。
 それは、脱炭素に対する市民の意識が低いことで、市民、住民の行動変容への手助けを求めていた。
 

イベント参加の市が企業に求めた内容 出典:マッチングイベントの資料(環境省)

 上は、参加したある市のプレゼンから抜粋したものである。企業に求める連携テーマとして、再エネの導入促進などに並んで、「市民・事業者へのゼロカーボン行動の促し」(赤枠)が示されている。この市では、ごみの分別やリサイクルの意識が高いにもかかわらず、それがゼロカーボンに結び付いていないという悩みを持っている。
 また、別の自治体でも、「市内中小企業の脱炭素化行動の促進、市民の脱炭素化意識の醸成」を求む!と呼びかけている。もうひとつ、ある町は「住民や町内事業者の巻き込みを進めることができていない、専門知識を持った事業者様と、普及啓発や合意形成を一緒になって進めていただきたい」と訴えている。
 これらの課題は決して珍しくなく、筆者も地域の民生部門で脱炭素の意識が進まない現実に度々直面する。実際に自治体から、市民向けの脱炭素意識を高める講演の要請が来るのも珍しくない。

背景にある希薄な危機感と
当事者意識の不足

 猛暑、線状降水帯の発生、頻発する水害など、温暖化が原因と考えられる、負の影響に日本は強くさらされている。しかし一方で、市民の脱炭素への取り組みは今一つ盛り上がっていない。
 下の世界各国での調査がその理由をうかがわせる。
 調査は、“人間は「気候変動」対応に寄与できるか”を各国の市民にアンケートしたもので、積極的な「YES」と消極的な「NO」の2択となっている。

人間は「気候変動」対応に寄与できるか ■YES ■NO(2021) 出典:Ipsos「気候変動に対する理解度」

世界の平均では、およそ8割が寄与できると答え、できないは1割以下の前向きな結果であった。日本(表の一番下)のYESは上の表29か国中の圧倒的な最下位で5割をわずかに超える程度である。しかし、NOは2割弱で多いとはいえ、飛びぬけているわけではない。また3割が、YESでもNOでもないどっちつかずと多く、わからないか無関心が想像される。危機感の有無は、この結果だけでは判断できないが、無力感や関心の低さが背景にありそうである。

「どの程度脱炭素社会に向けた行動をしているか」調査 出典:博報堂

 もう一つ調査結果を見よう。2022年の日本での調査で、こちらは、実際にどの程度脱炭素社会に向けた行動を取っているかを聞いたものである。
「非常に意識して行動している」は、わずか3%あまり、「ある程度意識して」を合わせても全体の3割しかない。ここでも、「どちらともいえない」がトップの3分の1で、なぜか世界での調査に似通っている。

意識変化からしか生まれない
行動変容

 先に取り上げた、自治体の悩み事も前項で示した意識の低さと連動している。
 政府もその点が気になっていることは間違いない。努力がなされていないわけではない。その一つが、『デコ活』である。
 デコ活とは、環境省が推し進める、「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動の愛称」である。CO2を減らす脱炭素(Decarbonization)の「DE=デ」と、環境に良いエコ(Eco)と活動・生活を組み合わせた新しい言葉と説明されているが、残念ながらほとんど浸透していない。

「デコ活」第2弾のロゴ 出典:環境省

 
 夏には、第2弾のロゴも発表された。バタフライエフェクトを念頭に、蝶を模したロゴであるが、細かい説明は省く。環境省の努力を揶揄(やゆ)するつもりはなく、センスなどのコメントも控えたい。

 重要なことは、脱炭素の最終的で最も重要な実行主体である市民、国民が動かなければ温暖化防止にたどり着かないということである。例えば、いくらEVを製造しても買ってもらえなければ普及せず、また再エネ電気への切り替えだって増えない。
 経済循環的な観点から言えば、関心が無ければ太陽光発電を自宅に導入しようとならず、工事も増えないということになる。このWEBの読者に再エネ事業に関係する方々も多いと思うのでビジネス感覚とも結びつくであろう。
 2024年は2050年の1.5度目標、2030年のNDC(国家の中間目標)達成のために、ギリギリの正念場の年になる可能性が高い。
日本における脱炭素の加速のためには、“悩み多き自治体”などと再エネ事業者が連携しながら、脱炭素の機運を高めることが、やや回り道に見えながら、実は大変重要であると考える。

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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