脱炭素

太陽光発電を増やすには、EVを増やせ

2023年は、脱炭素の流れがさらに加速する1年となる。しかし、太陽光発電などの発電には、時間や費用といった様々な課題が待ち受けている。そんな中、EVのバッテリー利用が注目を浴び始めている。EV拡大をどう実現するか、それが今後の日本の鍵となっていくだろう。エネルギージャーナリスト・北村和也氏の連載コラム第45回。

脱炭素
拡大の課題

 2022年のエネルギー費高騰を引きずったまま、待ったなしの脱炭素実践の年、2023年が明けた。そこでは再エネ拡大の基本路線は変わらないが、より現実的に再エネを増やす方法が求められている。2030年の中間目標(NDC)達成までの期間は現存の技術によって対応するしかない。政府の指針である「脱炭素ロードマップ」でも主要電源として自家消費やPPAによる太陽光発電に重きが置かれている。
 ところが太陽光発電の拡大には課題がある。すでに九州地方で大幅な「出力制御」を引き起こしている。さらにそれが、沖縄、東北、北海道などに拡大することがわかっている。このままでは、2030年には北海道では5割、東北でも4割が制御の対象になる。
 系統補強は効果的だが、時間と費用が掛かる。定置型蓄電池の利用はまだコストとの見合いである。そこで注目を浴び始めているのが、EVのバッテリー利用である。今回のコラムのタイトルはややスローガン的だが、筆者は再エネ導入の飛躍的普及にはEV拡大が必須であると考える。ところが、国内のEV販売の実態となるとかなり厳しい。今回は、そのあたりをまとめてお話ししたい。

EV導入が出力制御の
低減につながる理由

 出力制御の低減には、火力やバイオマス発電の出力制御(A)や連系線の強化などの他に、需要側の対策(B)が挙げられる。図にあるように揚水発電はBの代表例である。同様に蓄電池の利用も有力でその中にEVの蓄電池を利用する選択肢が以前から指摘されてきた。出力制御に引っかかる電気をEVのバッテリーに一時貯蔵するということである。

(出力制御の低減に向けた対策 出典:資源エネルギー庁)

 欧米では、再エネ電源100%を目指す研究が長く真剣に続けられている。再エネが主力になった国も多く、太陽も出ず風も吹かない時にどう対応するかが最終テーマとなっている。ドイツで言ういわゆる「暗い凪(Dunkelflaute)」である。
 蓄電池の大量導入や水素による貯蔵などと比べて、コストや技術的に有力だと考えられる解決策がEVのバッテリー利用である。日本でもスタートアップ企業などがEV搭載の蓄電池の活用のための技術開発を進め、実証に取り組んでいる。

 EVバッテリーの蓄電池機能利用の研究ではIGESの以下のまとめが面白い。
 いくつかの想定が前提にあるが、将来的に日本の1日の電力需要の半分という大量の蓄電効果があるとしている。これは、再エネ電力100%のための「暗い凪」対応でもあるが、もちろん出力制御の受け皿になる。技術的にはいわゆるV2Hとして、太陽光発電の効率的な自家消費や緊急時の電源として、ほぼ実用化に至っている。

(使っていないバッテリーの利用(V2G) 出典:IGES)

 EVの蓄電池利用のメリットは、定置型ならば丸ごと導入費用が掛かるのに対して、それぞれ個人や会社などが導入したEV蓄電池の空きを利用できる点で、大幅なコストダウンとなる。実は、自家用車は90%以上の時間は使われておらず、家などで駐車している。「空き」は潤沢に存在している。車社会のアメリカでも同様の数字となっている。

 再エネ電源、特に太陽光発電を増やすためには、出力制御に何とか対処する必要があり、そのためにはEVを増やして蓄電池として利用するのが、コスト面でも効率的であるというのが、本コラムの前半の結論である。

数字にはっきり表れた、
日本のEV戦略の遅れ

 お話ししてきたようにEVのバッテリー利用は再エネ拡大にも役立つのであるが、肝心のEV導入が日本はお寒い状態である。
年が替わり、2022年の乗用車の販売数などのデータがまとまり始め、世界的にEV導入が急速に進んでいることがはっきりしてきた。予想をはるかに上回るペースで進んでいる。イギリスの調査会社LMCオートモーティブなどによると2022年の世界のEV販売数はおよそ780万台で全体の10%に達したという。昨年比+68%という驚異的な伸びである。実は、日本でも昨年のEV販売が過去最高を記録したというのだが、6万台弱で販売シェアはわずか1.7%である。

 なぜ、日本はこんなに後れを取っているのだろうか。
 先に挙げた世界の数字はバッテリー式のEV(BEV)だけのものである。一方で、日本はトヨタが得意としてきたハイブリッド車(HEV)に頼りすぎてきた。日本政府が示す目標は、「2035年に電動車100%」というものである。素晴らしく野心的に見えるのだが、ここにはからくりがある。ここでいう電動車には、BEVだけでなく、ハイブリッドやプラグインハイブリッド車が含まれる。後ろの2つは、化石燃料を使う内燃機関が残っているため、すでに欧米などではEVに含まれなくなってきている。かくして、気が付けば日本はEV後進国になってしまったのである。
BEVは今後さらに加速し増えていく。2030年には世界の新車(乗用車)の5割程度になるという予測が多い。つまり、先取りする一部のマニアのものではなく、近い将来普通の選択肢から主流になるのが確定している。そうなれば、EVでのシェアは乗用車販売の全体でのシェアに直結することになる。

EVで負けることは、
乗用車全体での敗北

 下のグラフは、昨年の上半期のメーカー別のBEVの出荷台数トップ5である。

(2022年上半期、世界のBEV出荷台数トップ5メーカー 出典:Clean Technica)

お馴染みのテスラが1位で、2位と3位は中国のメーカー、4位にドイツのフォルクスワーゲン、5位は韓国の現代自動車と続く。
 日本のメーカーとしては10位以内あたりに日産グループがかろうじて入るだけで、トヨタはさらに下位となる。日本メーカー全体でも世界のEVシェアは5%に満たない。先ほど示したように、ハイブリッド(HEV)にこだわって時流を外したことが大きく影響している。このままでは、日本経済の推進役が急速に世界から取り残されかねない。
 脱炭素実現のためには再エネの拡充は必須で、EVは柔軟性をもたらして再エネを増強しやすくするためのツールとなる。もちろん、ガソリン車からの転換は交通の脱炭素化に欠かせない。
EVの役割をもう一度確認するとともに、現状に危機感を持たなければならない。経済の落ち込みと脱炭素の未達成という2つのリスクを排除するため、充電設備の普及などEV導入のテコ入れ策をさらに強化することが求められている。

 

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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