編集部からのお知らせ

「再エネ主力電源化時代」を先取りして俯瞰する【前編】~デジタル化と再エネ~

再エネ利用拡大と
デジタル化の必要性

数年前、シュタットヴェルケとVPPなど柔軟性ビジネスの視察のためドイツを訪れたときのことである。

その後何度も訪問することになる、シュタットヴェルケを束ねサポートするビジネスを行う企業で目にしたのは、ドイツのエネルギー経済転換(transformation)の特徴を4つのキイワードで示した図であった。

①自由化と断片化、②エネルギーシフトと脱炭素化、③分散化と個別化、④デジタル化とネット化である。

①は、エネルギーの自由化とそれに伴う発電、蓄エネルギーなど細分化された事業化を示し、②は、ドイツの「Energiewende:エネルギー革命」とその目的であるCO2フリーで、ストレートな重要性を示している。そして③は、再エネの特徴、分散化であり、地域中心に創エネと需要地との近接やいわゆるプロシューマーのようなエネルギーを作る側と使う側の一体化を表す。最後の④では、①から③のテーマの解決ツールとして、デジタル化、ネット化を上げていた。

当時は、日本では電力の小売り完全自由化にも至っておらず、①から③のテーマでさえ、ずいぶん先のことに見えた。再エネ普及に対してデジタル化が意味するものも、筆者にはきちんと把握できていなかった気がする。

VPPの肝となるデジタル化

前項の4つのキイワードをやっと筆者が頭に入れ、ドイツを毎年複数回訪れていくうちに、例えば、VPPという言葉が日本でも随分使われる様になった。ご存知のヴァーチャル発電所(Virtual Power Plant)のことで、「複数の発電施設を、あたかも一つの発電所のように利用するもの」との解説がいつもついてくる。

数多くの発電施設のコントロールには、まさしくIT、デジタル技術が欠かせず、エネルギーのデジタル化のシンボルのような存在ともいえる。ドイツでは新興の会社が手掛けることが多く、完全に事業化されている。日本で勘違いされているような蓄電池導入による電力融通ビジネスではなく、顧客の持つ発電設備を市場などに合わせて最適に稼働させ、売電する代行業の側面が強い。つまり、大きなインフラを所有しない、デジタル化したコンサルティングであり、ベンチャーに向いている。

VPPは、エネルギー自由化で生まれた断片化領域(①にあたる)で、発電の分散化(③相当)を前提にした、④のデジタル化ビジネスそのものであることがよくわかる。

実は、②の脱炭素化が最も遠く、使う発電施設は必ずしも再エネではない。最もVPPに有効な再エネ発電は、ドイツでは一定の普及を遂げたバイオガス発電である。発酵させて作ったバイオガスをタンクにためることができるため、電力の卸売市場が高値の時に発電し、その電気を売り、より高い利益を出すというスキームになる。

しかし、コントロールソフトを開発すれば参入できるため、VPPビジネスはドイツではすでに過当競争で手数料の値下げ合戦が続いている。海外に活路を求める企業もあり、例えば、日本でもっともよく知られているネクスト・クラフトヴェルケ(Next Kraftwerke)は、東北電力などと契約を行っている。

VPP企業は、発電能力を調整力として市場に提供することも事業化していて、こちらも同様に発電施設の所有者へのサービスとなる。事業拡大の結果として、マーケットの価格安定や、調整機能によって再エネがより多く入ることにもつながるため、今回のテーマである「再エネ主力電源化」に貢献するツールといえる。

なぜ日本のVPPは
うまくいかないのか

日本でも、少なくないエネルギー企業がVPPに参入している。大手の弱電メーカーやIT企業が多いが、どの担当者からも聞かれるのは「採算が合わない」である。

VPPビジネスの確固たる分析がまだ出来ておらず、想定でしかないが、数年前のスマートシティビジネスと似たような状況が背景にある可能性もある。当時、14兆円の市場ビジネスと盛んに言われ、こちらも大手企業が参加したが、数百億円の助成金を使った数か所での実証に終わった感が否めない。VPPがドイツのベンチャー企業によって進んだことを一度考える必要があるのではないだろうか。

再エネ拡大は、世界の主流であり、そのためには電力の融通や調整力の飛躍的な向上が必要であることに論を待たない。ここのブレークスルーは、日本での再エネ利活用のカギである。次回以降でまとめるが、再エネ電力の主力化は、「容量市場」のような後ろ向きの政策では決して達成できない。デジタル化は、最重要なポイントである。

デジタル化が結ぶ
電気、熱、交通エネルギーの融通

日本では、再エネと書くとほぼそのまま電気のことになる。

筆者も電気については「再エネ電源」とか「再エネ電力」と表すよう努めてはいるが、実際には本コラムですでに混在させてしまっている。わかりやすさから「再エネ主力電源化」を題字にしているが、続く内容は熱や交通に広がる。

ボリュームの関係で、このテーマは次のコラムに譲る。

次回以降では、「再エネの発電施設が天候に左右されるため、必ず大きな規模の化石燃料の発電施設が必要」また、「一般の需要を超える再エネの発電施設は必要ない」は、共に間違いであることを示す。ちなみに前者は、先ほども述べた容量市場創設の理由の一つとされている。

>>後編はこちら

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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