JEPX高騰の深奥にある不平等 独占体制を再考せよ
2021/05/26
JEPX高騰の深奥にあるものとは、一体何なのか。価格だけが高騰する違和感の核心に迫る。飯田哲也氏のコラム「再エネの達人」。
※情報は2021年1月末当時のもの。
価格だけが高騰する違和感
原因は需給バランスにあらず
2020年の年末から続く日本卸電力取引所(JEPX)の高騰が、大変な騒ぎになっています。経済産業省は、東日本大震災に匹敵する電力不足の危機と捉えているのなら相応の措置をとるべきですが、節電要請を出そうとしません。取引価格だけが高騰している非常に奇妙な事態です。
原因のひとつはLNG価格の上昇とされています。確かに、東アジア全域でLNG価格が上がっていますが、上昇幅は3倍から5倍程度。JEPX価格が250円近くにまで高騰するのは解せません。考えられるのは、LNG調達の最大手である株式会社JERAが、新型コロナの影響で調達に失敗した可能性です。ただし、同じLNGを原料とするガスの需給にはまったく影響が生じていないため、これも不可解です。
一方、寒波の影響で電力需要が急増したともいわれていますが、暖冬だった昨年を除き2019年以前と比較しても、電力需要はそこまで増えていません。JEPX高騰の原因はマーケットの需給バランスのみでは説明しにくいのです。
背後にアンフェアな市場構造
旧一電の独占体制にメスを
高騰の理由は、JEPXへの供給量が絞られたことで市場調達中心の新電力の買い札が集まったためと考えるのが妥当です。市場が正しく機能していれば、買い札が集まると売り札も増えます。旧一般電気事業者が火力発電所を稼働し、市場に電源を投入する時間は十分あったのではないでしょうか。そうすれば売り札が増え、価格高騰を抑制することもできたはずです。しかし、それは起こらず、市場は崩壊しました。原因は、日本の電力体制の構造的欠陥にあると思われます。
うがった見方をすると、経済産業省と旧一電が市場の暴走をあえて放置していたのかもしれません。自社内部調達が大半の旧一電にとっては高騰の影響は小さいため、ミスや不作為で起こった高騰をむしろ容認したと考えるのは自然です。極論すれば、容量市場や原発再稼働などへの反対勢力を抑えるための対抗策を演出したとみなされてもおかしくありません。
直接的には市場構造の崩壊ですが、その奥には旧一電に根強く残る独占体制の問題があります。旧一電は安価な電源にアクセスでき、新電力だけが高騰した市場から調達するしかないようなアンフェアな市場構造なら、設計を一からやり直す必要があります。監視機能がありながら、旧一電の放置を許す国の責任も重いものです。ある意味では、かつてのカリフォルニア電力危機に比肩する日本版エンロン事件ともいえます。市場構造と旧一電の独占体制を見直さなければ、同じような出来事が再び繰り返されるでしょう。
バイデン新政権で世界は加速
後れを取る日本は挽回を急げ
1月20日、アメリカでバイデン政権が誕生し、早速パリ協定へ復帰する大統領令に署名しました。エネルギー長官には、再エネを強力に推進するジェニファー・グランホルム元ミシガン州知事を起用する予定です。また、200兆円のグリーンリカバリー予算を確保し、EVへのシフトを進めていきます。
アメリカを筆頭に欧州、中国でもエネルギーとモビリティの大転換が加速しています。日本でも河野規制改革相の「再エネ規制総点検タスクフォース」に期待が寄せられていますが、世界から取り残されないよう、より一層スピード感を持って邁進することが求められます。再エネの主力電源化という表看板の下に潜む原発・石炭火力中心の考え方を早急に捨て去るべきです。
JEPXスポットプライス(2020年12月23日~2021年1月22日)
出典:日本卸電力取引所ウェブサイトより編集部作成
PROFILE
認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP) 所長
飯田哲也氏
自然エネルギー政策の革新と実践で国際的な第一人者。持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した非営利の環境エネルギー政策研究所所長。
Twitter:@iidatetsunari
取材・文/山下幸恵(office SOTO)
SOLAR JOURNAL vol.36(2021年冬号)より転載